国内 2021.09.17

吉浦ケインは「つながり」で優勝。練習生→日本代表の下積み支えたパナソニックS&Cコーチ

[ 向 風見也 ]
吉浦ケインは「つながり」で優勝。練習生→日本代表の下積み支えたパナソニックS&Cコーチ
トップリーグ2021を制したパナソニックワイルドナイツ(Photo: Getty Images)


 来年1月から始まるジャパンラグビーリーグワンで1部スタートを決めている埼玉パナソニックワイルドナイツ。坂手淳史、稲垣啓太ら、2019年ワールドカップ日本大会の日本代表を5名も擁し、今年5末まであったトップリーグの最終シーズンで5度目の優勝に輝いている。

「(シーズン前は)僕は、フィジカルより、メンタルの方で注意した方がいいと思っていた。いつもより準備期間が長く、友だちに会いに行けない、家族に会えないとかいろんなルールがあって、きつい状態だったから。…でも、いい準備ができた」

 スター集団が頂点に立った過程をこう述べるのは、この部でS&Cコーチと通訳を兼務する吉浦ケイン。日本人の父とオーストラリア人の母との間に生まれた25歳で、2歳で渡豪して2017年に来日した。語り口はフランクだ。

オンライン取材に応じるワイルドナイツの吉浦ケインS&Cコーチ

 2020年は、世界的なパンデミックの影響を受けた。同年5月まである予定だったトップリーグは2月下旬を最後に不成立。代表選手のスケジュールは白紙となり、海外勢の帰国もままならなくなった。

 しかし、当該の選手が多いパナソニックにとっては、2021年のシーズンへ向けた準備期間を十分に確保できたようにも映る。

 事実、今度の優勝の秘訣にプレシーズンの充実ぶりを挙げるプレーヤー、スタッフは多い。各々が他者を慮ることで、「メンタル」が重んじられる季節を首尾よく乗り越えたのだ。

 吉浦も深掘りする。

「今年、優勝したのは、皆がうまくつながったからだと思う。そのつながりは、きつい時のプレーに影響を与える。うちの外国人選手と日本人選手は結構いい関係は作っている。他のチームのスタッフとかと話したら、『パナソニックは個人としても強いけど、チームプレーヤーが多いね』と聞きます。あと、これは具体的にはわからないけど、『(他部の)外国人選手は、結構、個別で行動することが多いよ』とも。うちの外国人はできるだけ日本語を勉強して、日本人と出かけるようにする。逆に日本人も、できるだけ英語を使って外国人をサポートする」

 特に外国籍選手と仲がよかったのは、2018年度に東福岡高から加わった福井翔大だ。

 吉浦によると、週に2回は英語のレッスンを受けているという福井は、ベン・ガンター、ディラン・ライリー、ジャック・コーネルセンといった練習生契約を経てトップリーガーになったオーストラリア人選手とご近所同士だったそう。当時の拠点だった群馬県太田市において、特に2019年以前は「誰かの家に集まってゲームをする」ことも多かったという。

 ガンターら3選手は、今年、日本代表候補に名を連ねた。今年限り有効の国代表資格取得条件のひとつに、「36か月以上継続居住」がある。三者ともその要件を満たすべく、「コロナ禍」という言葉が流行り始めた2020年春も日本で汗を流してきた。

 吉浦もこの国に残った。オーストラリアの家族のもとへ戻るより、3選手の代表資格取得を側面支援したのだ。

「ルールのなかで、週に3~4回は筋トレ、コンディショニング、スピード系トレーニングを」

今夏の欧州遠征で日本代表デビューを果たし2キャップを獲得したパナソニックのコーネルセン ©JRFU

 そういえば2019年度までのシーズンオフは、皆でブリスベンのジムに集まった。母国でチャンスのなかった逸材が異国で名声を得るまでを、吉浦は支えてきた。

 かねてポテンシャルの高かったFLのガンターには、栄養管理と持久力強化に重きを置かせた。アウトサイドCTBのライリーへは、おもに瞬発力系のセッションを課し、試合終盤までトップスピードで走れるよう促した。コーネルセンはずっと勤勉で、時を重ねるごとにリーダーシップをつけていたと語る。

 3名のうち、今秋に代表資格を得られそうなライリー以外の2名は今夏の日本代表ツアーに参加。コーネルセンは初キャップを得た。吉浦はこうだ。

「パナソニックは、ファンが楽しんでみられるラグビーをやりたい。スピード、スキルのあるスタイルです。それをやるために、僕はできるだけフィットネス、スピードのある選手を作る。できるだけ(選手を)レベルアップできるよう、いいメニューを考えます」

 チームは今年9月までに、本拠地を埼玉県熊谷市へ移した。新装開店する国内リーグで初代王者となるべく、次の準備に取り掛かっている。

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