国内 2021.09.01

全員集合できず合宿実現も大変だった。関西学院大、日本一になるため「愛され」目指す。

[ 向 風見也 ]
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全員集合できず合宿実現も大変だった。関西学院大、日本一になるため「愛され」目指す。
関西学院大学の2021年度主将、魚谷勇波(撮影:向 風見也)


 関西学院大ラグビー部は、冬からできたはずの新チームの練習が春までできなかった。

 なんと、昨年12月にあった控え組のための練習試合がその理由だった。相手の同志社大から流行りのウイルスに苦しむ学生が出て、それを関西学院大の当局が重く、重く見たからのようだ。

 前年度の「カンガク」は、年内でシーズンを終えている。かようなチームは新年の1月、2月頃から新体制で動くものだが、2021年度のチームが走り始めたのは4月になってからだ。就任2年目の小樋山樹監督は言う。

「感染対策をしっかりしようという大学は決して悪くない。僕らに足りていない部分があるという指摘もあったので、(雌伏期間は)それをしっかり作り直そうとしました」

 ベクトルを自分たちに向けたのだ。部員数約160名と大所帯のクラブは、選手寮を持たない。全部員がひとつ屋根の下で暮らすチームよりもクラスターを生みづらい一方、各自が自宅やアパートからグラウンドへ集まるため、市中感染のリスクは高い。

 部員たちは日頃から行動記録を取り、文部科学省のモニタリングが伴う無料のPRC検査を定期的に受けた。活動を認められるまでも、認められてからも、「ひとつひとつの部分を細かくやろうと言い合ってきました」と指揮官は続ける。

「その他には黙食、皆でご飯に行かないようにすることなど(を徹底した)」

 鍛錬期が短くなるなか、取捨選択の意識も求められた。

 始動から約2か月後の6月6日以降は、関西大学春季トーナメントに参戦した。

 秋以降のシーズンに向けた前哨戦として位置づけられるこの戦いを前に、関西学院大は少人数でボールを動かす練習に注力。激しさの伴う接点でのプレーはほぼ手つかずの状態だったという。

 結局、昨季の大学選手権で初優勝を果たした天理大に12-55で敗れて準決勝敗退。続く3・4位決定戦では、各部が加盟する関西大学Aリーグ戦で前年度3位という京都産業大に5-90と大敗した。上位陣に対し、ぶつかり合いで差し込まれた。

 ただしFLの魚谷勇波主将は、「(その領域はまだ練習で)やっていないので」。当時の状況を踏まえればやむなし、との見立てだ。

「(練習で集中的に)やったらできるようになるだろうと、悲観的に捉えていません」

 話をしたのは8月17日。長野・菅平で2季ぶりに実施した夏合宿中のことだ。

 魚谷主将が「夏合宿では練習後に全員でミーティングをおこなえる利点もある。一日、一日、改善点を出して、次の日に臨める」と喜べるこのキャンプも、実現は簡単ではなかったろう。

 小樋山監督は、選手の保護者らのバックアップのおかげで大学側の理解を得られたと強調する。現地入りに際しては、素早く結果がわかる実費でのPRC検査を受けていた。

「PCR検査については、いままでいただいていたOB会費、他には特別な呼びかけ(による卒業生の支援)でまかないました」

 その貴重な合宿へも、人数制限の関係で参加できない4年生がいる。魚谷主将は「本当に、歯がゆいと言いますか…」。あちこちへ散らばる思いを、なんとか一遍の言葉にまとめようとする。

「まだ今季は、全部員が揃って練習をしたことがない。そのため『全員でやっている』という意識が芽生えにくいところはあります。特に、Bスコッド(控え組)の4年生には苦しい思いをさせてしまっています。確かに1人でも濃厚接触者や陽性者が出てしまうと、全てがストップしてしまう。ただ、もしそうなってもその人が悪いわけではなくて…」

 2021年度の船頭役は全ての現実を踏まえ、「愛し、愛されるチームで日本一」という目標を掲げる。チーム内外の両方へアンテナを張りつつ、意思を表明する。

「別に感謝されたいというわけではなく、愛されることによって私たちもよりよいラグビーができる、ということです。また、コロナ禍において、愛されていなければ『なんであいつらは(部活動を)しとるねん』と言われてしまう。菅平でも食事後は周りを徹底的にきれいにするとか、シンプルな行動を大事にしていきます」

 季節が変われば、今年度の関西リーグが始まる。関西学院大は9月19日、大阪・ヤンマースタジアム長居で立命館大と初戦をおこなう。

 感染症という目に見えない敵に覆われた世界にあって、キャンパスに価値をもたらす集団でありたい。

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