【ラグリパWest】夏はスクラムの季節。岡田明久 [天理大FWコーチ]
予定では30分でも、熱が入ると3倍ほどの時間を費やすこともある。
「最初は誰でも押せるんや。問題は疲れてから押せるかどうかなんや」
数を組むことはそのためにも必要です。
でもスクラムは計16人いないと組めません。ひとりでできる練習法はありますか?
「仰向けに寝て、首を浮かせて上下、右と左に動かす。100本づつ、300本してみ。50回過ぎたら首が固まってくるで。安全の面からも首を鍛えるのは大事や。マシンにひとりで当たるのもええ。組み合う時に肝心なんはヒット。地面を蹴るくらいに行くんや」
最近はあまり聞かれなくなったけど、昔はよく「首を獲る」と言っていました。自分の首と肩で相手の首を固めて、動けないようにしてしまう。体重は関係ありません。また、ヒットの速さと強さは、すみやかによいポジションを取るためにも重要です。
アキさんは肩車やお姫様だっこをさせて100メートルを走らせたりもします。体重は常に移動するため、ウォーター・バッグと同じ役割を果たし、腹筋や背筋、腰などコアが鍛えられる。「体の強さ」はこの体幹に起因しています。ここがしっかりしていれば、体重が劣っても、大きな問題にはなりません。
ただ、スクラムは相手のあることなので、押されることもあります。その時はダイレクト・フッキングを推奨します。投入されたボールをフッカーが一気に外にかき出す。劣勢で時間をかけたくない時に使います。
勝て、と言ってスクラムを組ませているのに、負けた時を想定した練習はできない、という指導者もいますが…。
「その気持ちはわかる。せやけど、試合では何が起こるか分からへん。だから、お守りとして持っとくべきなんやな」
第二案の準備を言います。
それでも負けることはある。
「その時は素直に負けを認める。ああじゃ、こうじゃ言い訳をしない。素直というのはいい選手になる最低限の条件や」
味方や相手やレフリーのせいにしない。ベクトルを自分に向け、再び鍛錬する。
最後にこう結びました。
「俺は部員たちに、スクラムを押されることは満員の国立競技場で裸になるより恥ずかしいことや、って言うてるよ」
秋のシーズン本番に向け、悔いを残さないように夏の鍛錬を—。
◆おかだ・あきひさ 1962年(昭和37)5月13日生まれ。59歳。大阪府出身。天理、明大、ワールドでプロップとして現役生活を送る。大阪産業大を経て、2008年度から天理大のFWコーチとしてスクラムを指導する。小松節夫監督とは高校の同期。関西での優勝12回のうち、小松監督が成した8回すべてに関わった。2019年のワールドカップで日本代表スコッドに選ばれたプロップの木津悠輔(トヨタ自動車)は教え子のひとり。