世界に刺さる日本代表12番・中村亮土、「どこに行っても競争はある」と己高める。
欧州きってのスター集団を前に、極東の島国でサラリーマン経験のある30歳が立ちはだかった。
6月26日、エディンバラはマレーフィールド。サントリー所属で日本代表の中村亮土が、2019年のワールドカップ日本大会で8強入りして以来のテストマッチ(代表戦)に挑む。
相手はブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ。4年に一度しか編成されない連合軍で、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの名手からなる。
中村の対面にあたるインサイドCTBには、アイルランド代表のバンディー・アキが入った。アキは身長178センチ、体重100キロと上背こそ飛び抜けてはいないが、突進力がある。
日本代表が2019年ワールドカップでアイルランド代表を下した際、アキはけがで欠場していて、戦前にこの人の動きを分析していた中村は「よりその選手がいることで、アイルランドの全体が怖くなるイメージがあります。勢いを持たせられる選手だったので」と、幻に終わった「対戦」を後述したものだ。
果たして今回、アキが持ち前のパワーを披露した一方、中村は渋く光る。身長181センチ、体重92キロと一線級のCTBにあって大柄ではないが、鋭く防御へ仕掛けながらスペースへパスを放つ。
「(代表戦は国内の)トップリーグよりフィジカリティになるので、そこに適応するのが大事。スキルも、よりプレッシャーがかかるなかで遂行できるよう毎日(の練習から)取り組んでいます」
何より得意の防御では、持ち前の危機察知能力と読みの鋭さをアピールした。
おもに防御網の外側に立ち、鋭い飛び出しで列全体を押し上げるのが役目だ。相手との間合いを一気に詰め、射程距離にランナーがいればその足元へ刺さる。倒す。
後半13分。ハーフ線付近で左から中央への折り返しのパスの軌道へ反応する。受け手が球を得た瞬間にぶつかり、押し戻す。向こうは自身より17センチ、21キロも大きなFLのタイグ・バーンだった。
その後も向こうの攻めは続く。しかし中村は、鋭い出足で大外のスペースを埋める。パスの選択肢を絞る。やむなく相手走者が接点付近で球をつなげば、その地点には味方のFW陣が待ち構えていた。テンポを鈍らせる。手詰まりにさせる。
最後は、SHのコナー・マレーのキックがフィールド内で弾まずにタッチラインの外へ出る。ルール上、日本代表は蹴った地点の近くでラインアウトを得た。中村の渋い働きもあり、一連の攻防を制したのである。
この午後、別なシーンでも強烈なタックルを披露。5月下旬に日本代表の別府合宿へ合流した際、こう話していた。
「(チームは)フィジカルのところ、大きな選手にも負けないというところは、すごく大事にしています。タックルの仕方、タックルシチュエーションはこだわってやっています」
鹿児島県出身で、帝京大の主将だった2013年度には大学選手権を5連覇した。サントリーに入社後は部内競争でも試練を与えられたが、18年にはジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる現日本代表での地位を確立。2019年ワールドカップの全5試合に出ると、プロに転向。いまは「世界一のCTB」を目指す。
「自分のパフォーマンスにフォーカスして、レベルアップしたいです。求められていることも変わらない。質を上げていければ」
再出発した日本代表にあっては、定位置争いが激化する。NTTコムのシェーン・ゲイツが初選出され、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦でWTBとして日本代表デビューを飾ったシオサイア・フィフィタもCTBが本職だ。
中村は、並みいる海外選手との競争を強いられているのだ。ただしライバルと向き合う態度は、防御システムを制御する際とそう変わらない。落ち着いている。
「どこに行って競争はある。それを意識するより、自分ができる100パーセントのことをやり続けることにフォーカスできています」
ライオンズ戦は前半に反則を重ねたこともあり、10-28と惜敗した。ただし今回は大一番で、向こうは昨年から国際試合を再開させている一流国の戦士。矜持を保てるスコアで締めたこと自体が前向きにも捉えられる。
7月3日には、2019年ワールドカップ以来となるアイルランド代表戦を敵地でおこなう。他人と比べず自分と向き合う12番は、すでに次戦への準備に入っている。