日本代表 2021.06.28

強行合流で好突進連発。日本代表の姫野、ライオンズ戦活躍までの過程。

[ 向 風見也 ]
強行合流で好突進連発。日本代表の姫野、ライオンズ戦活躍までの過程。
ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦でロビー・ヘンショウと勝負する姫野和樹 ©JRFU


 姫野和樹は、「率直に…まぁ、疲れてますね」。約30時間のフライトによりチームへ合流した翌日、心身のコンディションについて問われてこう漏らした。

 6月22日、ラグビー日本代表によるオンライン取材でのことだ。

「でも、いいチャレンジになると思う。(次は)ラグビー選手として光栄な試合になると思うし、自分の100パーセントを出す準備というのは、こういう時だからこそやらなければいけないなと」

 19日にはニュージーランドはハイランダーズの一員として、スーパーラグビー トランス・タスマンの決勝に出場。その足で飛行機に乗った。スコットランドへ飛ぶ。

 5月下旬から活動する日本代表へ加わるや、4日後の6月26日の大一番への出場を期待された。ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチは、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦のメンバー表に姫野の名を加えるのだ。

「長いフライト時間を経てここに来てくれた。彼の精神は素晴らしい。彼のシャープさ、変わっていません。ファイナルを終えてダニーデン(ハイランダーズの本拠地)からUKに来た。彼は元気で、彼が来ることでチームはエキサイティングな環境になっています。練習は火曜まで合流できなかったので、彼はベンチから出るのが妥当と判断しました」

 イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドという計4協会の連合軍と初めて戦う特別な日、エディンバラのマレーフィールドに姫野が現れた。背番号20をつけ、0-28と大きくリードされた後半10分に登場する。

 2019年のワールドカップ日本大会で8強入りした際の推進力は健在。欧州最高クラスの大型選手たちともフィジカリティで伍し、攻めを勢いづける。

 振り返れば、疲弊している旨を明かした日は「出られる可能性があるのであれば、ライオンズ相手に自分がどれだけやれるかを知りたい」とも述べていたもの。静かなトーンではあったが、前向きなフレーズを絞り出していた。

「(対戦が)決まった時からターゲットにしていた試合だったので、こういう状況ですけど、言い訳なしでやっていきたいなと思います。(日本代表の)桜のジャージィというのはね、どんな時でも、どんな状況でも、着られるのは自分にとって名誉なこと。そのジャージィを着てプレーできるのはいつだって嬉しいです」
 
 ノーサイド。10-28。自らトライも挙げ、遠く離れた日本国民を興奮させた。チームメイトで姫野と同時に出場のテビタ・タタフは、「自分たちが入ったらもっとフィジカルで行こうと、ハーフタイムで話しました」とうなずく。

 当の本人は、グラウンド上でのインタビューで笑みを浮かべる。

「普通の試合とは違うような感覚で臨みました。やっぱり、ライオンズという名誉あるチームと対戦できるというのは、ラグビー人生で自分の宝物になるだろうし、素晴らしい経験になったと思います」

 今年「力の証明」をテーマに掲げ、ニュージーランドへ渡った。早々にチームのレギュラーポジションを獲得も、一時は異国での単身生活と「結果を残さなきゃいけない」という責任感でストレスを覚えた。

「悩みを打ち明ける人も近くにいないし、慣れない環境のなかで毎日、毎日、自分自身にプレッシャーをかけ、自分の甘えというのを抑え、毎週、毎週、(試合への)メンタルを作っていくというのが…。すごくしんどい時期がありました」

 もっともシーズン終盤戦には、「自分がラグビーを楽しめているか」に集中するよう心を整理。約1年8か月ぶりとなった代表戦は、その延長線上にあった。

「世界最高峰と言われるスーパーラグビーで17試合、出てきました。自分のなかで確固たる自信をつけてきた。ライオンズという強大な敵に対しても、大きく見ることなく、しっかりとリスペクトを持ってやれた。自分の成長を感じられた部分でもありました」

 フィールドに立つその瞬間は ―たとえ無意識的にであっても― 人々の期待するヒーロー像を全うする。愛知県で生まれ育ったいつかの活発な男子はいま、世界的なラグビー選手の1人である。

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