「日本ラグビーの未来図を変える」。五郎丸歩が2015年ワールドカップの映像を見ない理由
穏やかな表情だった。
2015年のワールドカップで南アフリカ代表を破り、世界中を驚かせた日本代表。8強進出こそならなかったけれど、サモア、アメリカにも勝った同大会のチームは、2019年大会同様にファンを熱狂させた。
そのチームの中心だった五郎丸歩(ヤマハ発動機)は、トップリーグ2021を最後に現役生活にビリオドを打った。
シーズン終盤はコンディションを崩し、ラストゲームは仲間のプレーをスタンドから見守った。ピッチに立つことはできなかったが、「寂しさはまったくありません。やり切ったので」。
柔和な顔は、歩んできた道が充実していた証拠だった。
「引退するまでに成し遂げておきたいと考えていたものはすべてクリアしました。むしろ、思っていた以上のことができたラグビー人生でした」
ただ、決して順風満帆ではなかったと振り返る。
「むしろ、沈んでいた時期も少なくなかった。高校時代は国体で一度優勝しただけで、花園ではいつもベスト8止まり。ヤマハでは強化縮小も経験しています」
それなのに、楕円球人生を最終的にハッピーエンドで終えることができた。
「先を見ず、目の前のことを一つひとつやり切る。結局、それが近道と気づきました」
いまを生きる。
人生はそのくり返しと知り、一歩一歩階段を昇った。
人とは違う、大きなことをやり遂げられた理由を、こう話す。
「自分が成し遂げたいことより、周りが成し遂げたいと思っていることに重きを置きました。結果、自分が持っていた目標よりはるかに頑張らないといけなかった」
2015年への道を思い出す。
「幼い頃から、ワールドカップに出たい気持ちは持っていました。それだけだと、大会メンバーに入った時点で夢は叶ったわけです。
でもあの大会は、2019年に日本で開催されるワールドカップに向けて、(この国のラグビーの)環境を大きく変えないといけなかった。それには、南アフリカに勝つしかないぞ、と。歴史を変えようというチームとしてのターゲットが、自分の目標設定も変えてくれた」
多くの人が、「何度見ても泣ける」という南アフリカ戦勝利の映像を見返すことはない。
「見るのは、2019年大会のものです。ワールドカップが日本で開催されている。それを日本の多くのファンがスタジアムで見つめている。僕ら、2015年大会のメンバーが見たかった光景がそれでしたから」
2015年大会、2019年大会の日本代表の活躍により、将来はサクラのジャージーを着たいと思うようになった子どもたちが増えたことが嬉しい。
だから2022年1月発足の新リーグには、子どもたちの夢を叶える環境を整えてほしいと願う。
「(ヤマハに在籍して)静岡で13年暮らしました。中学まではラグビーをやれても高校にラクビー部がないとか、そういう話を何度も聞いたことがあります。先を目指したくても目指せない子どもたちがこれまで何人もいた。残念なことです。
だから新リーグのチームにはユースチームを持ってもらい、子どもたちがラグビーを続けられる環境を作ってほしいですね。そして頑張れば、そこのトップチームに入れるとか、希望の道筋が見えるようにしてあげたい」
自分自身、ヤマハの新クラブにマネージメントスタッフとして加わり、描くイメージの実現に力を注ぐつもりだ。
「選手としてやり残したことはありませんが、現役時代に(ラグビー界に)こうあってほしいな、と思っていたことを実現していきたい」
2015年大会、2019年大会のメンバーが、将来的に日本ラグビーを支える組織の中に入っていけたら、これまでとは違う道を進んでいけると感じている。
時代は変わる。ラグビーも変わる。
日本代表というチームが世界の中での日本ラグビーの位置を変えた。
いま、松島幸太朗(クレルモン・オーヴェルニュ)や姫野和樹(ハイランダーズ)らがフランス、ニュージーランドでプレーし、子どもたちの憧れとなっている。
4年に一度だった人々の興奮が、松島や姫野の活躍により、いま、週に一度の喜びとなった。
「これまでになかった、子どもたちへのラグビーの普及の形です」
もっともっと海外に出ていく選手が増えるのが楽しみだ。新リーグの充実も。
「そうなれば、子どもたちにとっての現在のボーデン・バレットのような存在が、将来は日本の選手になる」
日本ラグビーの未来図を語る表情が楽しそうだった。
五郎丸歩はラグビーから引退したわけではなかった。
◆TOPICS!
引退を決めた五郎丸歩選手の長きに渡る活躍への敬意を込めて、アディダス ジャパン株式会社の代表取締役、ステイン・ヴァンデヴォースト氏はスポーツグラフィックデザイナーであるカロライン・ブランシェ氏のオリジナルデザインポスターを贈呈した。
◎カロライン・ブランシェ氏プロフィール
グラフィックデザイナーとして12年間活躍。世界のスポーツ・エンターテインメントに関わるグラフィックを担当し、光と質感を用い、感情とダイナミズムを同時に表現する独自のスタイルを得意とする。
【読者プレゼント】
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商品提供:アディダス ジャパン