日本代表 2021.06.18

バリカンと丹田。ヴァル アサエリ愛、2023年への「ストロングポジション」。

[ 向 風見也 ]
バリカンと丹田。ヴァル アサエリ愛、2023年への「ストロングポジション」。
別府合宿で、HO坂手淳史、PR稲垣啓太とともにスクラム練習をするPRヴァル アサエリ愛 ©JRFU


 ラグビー日本代表の別府合宿中、一部の選手やスタッフの散髪を担ったのがヴァル アサエリ愛だ。

 身長187センチ、体重115キロの32歳は、国内所属先のパナソニックでもバリカンを手に活躍している。髪を刈る様子を自身のSNSに載せた際、知り合いの女性理髪師に褒められたという。

「田村(優)選手とマノ(ロマノ レメキ ラヴァ)と…あと、もう何人かいます!」

 5月26日に本格始動したキャンプへ28日に合流し、この話をしたのは6月1日。フォトジェニックの司令塔や、ポジティブなフィニッシャーの「予約」を承ったと明かす。

 5月23日まであった今季のトップリーグでは、5シーズンぶりの優勝に喜んだ。過密日程下の代表合流に関し、パナソニックでの役割上ベンチスタートの多かった本人は笑う。

「コンディションは、とても、いいです。トップリーグも後半からリザーブから。そんなにフルで出てないので。はい」
 
 オンライン会見の画面を介しても、凪のような雰囲気を醸す。

 以前の代表キャンプでは「カバ」が楽しみだった。太平洋諸島の植物の根から作る飲み物で、おもにポリネシアの島々をルーツにする選手が分け合っていたようだ。今回は「コロナだから、飲まないです」。感染症対策のために嗜好品をがまんしているのだと語る際も、穏やかな顔つきは変わらなかった。

 2019年のワールドカップ日本大会で8強入りしたメンバーの1人。当時の仲間で同じトンガ出身の中島イシレリがこのたび選外となるなか、現体制下で初選出となるテビタ・タタフ、日本代表デビューを狙うシオサイア・フィフィタら同郷組と楽しむ。

「練習に行くバスのなかでも、(宿舎に)帰ってきてからも、いろんな楽しい話をして…。そういうことをすると、次の日もまた頑張れる感じがしますね」

 埼玉の正智深谷高校、埼玉工業大学を経て、2013年にパナソニック入り。翌年には日本国籍を得た。

 もともと突破力が長所のNO8だったが、2015年に右PRへ転じた。活躍の場を広げるためだ。

 元日本代表の右PRでパナソニックの相馬朋和スクラムコーチ兼チームコーディネーターは、ヴァルを「トンガ人のパワー、日本人の勤勉さ(を持ち合わせている)」と高く評価した。確かに、強くてがまん強い選手がいたら最前列で頼りになる。

 日本代表には長谷川慎スクラムコーチがいる。列強国の大きな相手に組み勝つべく、互いのまとまりを重視。隣同士、前後同士の選手が意図的に身体を密着させ、芝に噛ませるスパイクのポイントの数にもこだわる。精密な型を具現化すべく、筋力トレーニングと組み込みを重ねる。

 複数選手の証言によると、いまスクラムで意識されるのは「丹田」である。へその下あたりに力を籠め、姿勢を安定化させるイメージか。ヴァルは言う。
 
「丹田を固めると、自分の身体がぶれない。それでストロングポジションになれるという意味かなと、自分では思っています」

 パナソニックでのジムワークで背中、首、ボディバランスを鍛えてきたのも相まって、スクラム時の姿勢が「前よりいいです」と自信を持つ。

「自分のフォームが変わっています。いまのところ、いい感じですね」

 長期スパンで見据えるのは、2023年秋の舞台だ。ワールドカップ・フランス大会では、「スタートで出たいです」。日本大会では1度のみに終わった先発機会を、今度はもっと増やしたい。柔和な顔つきで宣言する。

「自分のなかでも、ワールドカップが終わってすぐに次のワールドカップは出たい気持ちが出てきて…。頑張るだけです。自分の身体を強くして、代表のハードトレーニングを乗り越えられるように」

 まずは今度の6月26日、スコットランド・マレーフィールドでブリティシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦出場を目指す。

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