日本代表 2021.06.05

初の日本代表入り。シェーン・ゲイツが越えてきた4つの「ロードハンプ」。

[ 向 風見也 ]
初の日本代表入り。シェーン・ゲイツが越えてきた4つの「ロードハンプ」。
来日して6年目。けがを克服して日本代表入りとなったシェーン・ゲイツ(撮影:長岡洋幸)


 キーワードは「コネクション」だ。

 ラグビー日本代表は、2019年のワールドカップ日本大会以来となる活動を始めたばかりだ。

 6月中旬以降の連戦に向け、5月下旬から大分の別府で合宿を張る。短い準備期間を無駄にしまいと、グラウンド内外で結束力と戦術理解度を高める。

「コネクションを取るには、お互いのことを理解するのが大事だと思っています。特に新しい選手へは、自分からラグビー以外のことも話すようにしています。言葉を覚える意味でも、自分から積極的に日本語で話しかけます。家族のこと、出身がどこか、このチームへ来るまでの経緯…。そうすると向こうは英語で返事をしてくれる」

 こう語るのはシェーン・ゲイツ。南アフリカ出身の28歳で、今回が初の日本代表となる。

 トニー・ブラウン アタックコーチから「自分のゲームをやろう。そのためには、チームのストラクチャー(戦い方)にフィットしなくては」と伝えられたと言い、「コーチ陣は素晴らしい知識を持っていて、それを学べることは嬉しく思います」と続けた。

「(大切なのは)コネクション。周りと連携しなくては」

 故郷のキングズを経て、2016年に初来日してNTTコム入り。身長183センチ、体重95キロのCTBで、鋭いランとタックル、ピンポイントのパスやキックを長所とする。2019年ワールドカップで8強入りした中村亮土、ラファエレ ティモシーとの定位置争いへも「彼らと練習することで学ぶことがある」と前向きだ。

「この環境にいられるのは幸運なことです。(レギュラーを)選ぶのはコーチ(の仕事)。私としては学ぶ気持ちを持ち続け、自分の強みを発揮する。ベストを尽くします」

 競争に際し、いくつもの「段差」を乗り越えてきた。

 事の発端は2019年3月。代表資格の取得とワールドカップ出場が期待されるなか、サンウルブズの一員として出たスーパーラグビー(国際リーグ)の試合で右のすねを骨折した。以後、2021年の国内トップリーグで復帰するまでに計4度も手術を受けてきた。

 メスを入れ、リハビリを重ね、状態が上がらなければまた入院の繰り返しだ。「ラグビーではそういうこともある」と相対化するまで、「本当に難しい時間」を過ごした。

「道でいうと、その途中にロードハンプがあって、その都度、スピードを落とし、オペレーションをし直してまた走る…というような難しい道のりでした」

 ガタン。ガタン。日本の高速道路で自動車を減速させる「ロードハンプ」の音は、ワールドカップ出場という目標の絶たれた若きアスリートにとって心地の良いものではなかっただろう。

 しかしゲイツは、「ここでキャリアは終えたくない」。所属先のNTTコムに復帰を待ってもらっていて、母国の家族やガールフレンドにも勇気づけられた。大勢の力を背に、信念を貫けたのだ。

「凸凹な道でも、その道はまっすぐで、最終目的地へは向かっていける。その気持ちでやってきました」

 雌伏期間には、出場を望んでいたワールドカップをファンとして楽しんだ。

 「自分が入りたかった」という日本代表が準々決勝で母国の南アフリカ代表に敗れた時だけは「複雑」な気持ちになったものの、「大会のすべての試合が楽しかった」。赤と白のジャージィが「エンターテイメント性」のあるラグビーをしていたのもよかったと笑う。

「ここまで長い道のりになりました。最初はなかなか現実を受け入れられなかったですが、ファンの方々からも温かい言葉をいただけた。私のガールフレンドや家族には、ラグビー以外のところでストレスを軽減してもらって…。そんななかでラグビーがしたい、強くなって復帰したいと考えるようになった。いまはここ(日本代表)にいることが夢のようで、嬉しい気持ちでいっぱいです」

 モチベーションが高まる背景には、組まれた試合の希少性がある。

 日本代表は国内での強化試合を経て、26日にはスコットランドのマレーフィールドでブリティシュ&アイリッシュ・ライオンズとぶつかる。

 ブリティシュ&アイリッシュ・ライオンズは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの代表的な選手により4年に一度編まれる連合軍だ。両親のルーツがスコットランドとアイルランドにあるというゲイツは、「そういう意味でも、今度の試合が楽しみです」と笑う。

 あの時にギブアップしなかったゲイツにとって、あの時にギブアップを言わせなかったゲイツのサポーターにとって、キックオフの瞬間はどれだけ感慨深いだろう。

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