【コラム】「最高峰」の使命
温かく歓迎してくれた日本のラグビーファンへの感謝の思いが、評価に若干の色をつけた部分はあったかもしれない。ただ、社交辞令ではないとも感じた。
5月24日に開催されたトップリーグの年間表彰式。6T37G8PGの128点を挙げて今シーズンの得点王を獲得したサントリーのボーデン・バレットは、壇上でこう述べた。
「トップ6からトップ8あたりまでのチームはスーパーラグビー並みのスタンダードでした。ニュージーランドから日本に来た選手は休暇をとっていると思われがちですが、それは違います。非常に速く、スキルフルで、素晴らしいラグビーでした。日本で学んだたくさんのことを、ニュージーランドに持ち帰りたいと思っています」
国際統括機関のワールドラグビーが選出する世界最優秀選手に2度輝いた楕円球界の至宝が、日本の国内リーグのクオリティに太鼓判を押してくれている。感慨を覚えると同時に、その言葉を大袈裟とも思わなかった。それくらい、今シーズンのトップリーグはハイレベルだった。
各チームに散らばった強豪国の名手たちが、いかんなく実力を発揮してプレーを牽引する。それに負けじと日本選手も堂々たるパフォーマンスを見せてくれたから、ゲームは白熱した。コロナ禍でなければ、もっともっと多くの人が目の前でこの迫力を体感できるのに。そんな思いが何度も頭をよぎった。
とりわけプレーオフトーナメントに入ってからの戦いは見応えがあった。トヨタ自動車との死闘を終えたNTTドコモの1ミリの余力すら残っていないのではと感じるほど力を出し尽くした姿、レッドカードにより50分あまりを14人で戦いながら神戸製鋼を撃破したクボタの奮闘は、今なお鮮やかに脳裏に残ったままだ。パナソニックとサントリーのファイナル、糸がピンと張り詰めたような80分間は、それこそスーパーラグビーのタイトルをかけた決戦の緊迫感を想起させた。
そして確信した。やはり高いレベルの拮抗した試合を数多く繰り広げることが、コンペティション成功の最良にして不可欠な要素なのだと。
どのチームが勝つかわからない。ラグビーに限らずスポーツリーグの醍醐味だろう。そこに卓越したスピードとスキル、パワーや精神力が重なることで、熱気はどんどん膨らむ。そしてその興奮を味わうために、多くのファンがスタジアムへ足を運び、あるいは中継映像に釘づけになる。
2011年、当時ウエールズ協会のコーチ育成部門でマネージャーを務めるジェリー・ロバーツ氏にインタビューする機会があった。1994年にファイブネーションズ(現シックスネーションズ)で優勝したのを最後に長い低迷期にあえいでいたウエールズは、2003年に組織の構造改革を敢行し、2005年と2008年のシックスネーションズで全勝優勝を達成するという成功を収めた。その時に行ったのが、それまで国内リーグに参加していた12の地域チームを、4つのビッグクラブ(カーディフ・ブルーズ、ドラゴンズ、オスプリーズ、スカーレッツ)に再編することだった。
伝統ある強豪とはいえ、ウエールズは人口320万人ほどの小さな国だ。限りある人材が12チームに分散すれば、どうしても一つひとつのチームの競争力は低下する。それを4つのチームに集約することで質の高いプレーヤー同士で試合を戦えるようになり、一戦一戦のクオリティは大幅に向上した。そうした国内シーンの進歩が、国際大会における好成績につながった――という話だった。
むろん、企業を母体とするチームで構成される日本のリーグと、プロ選手の集まりであるウエールズの環境を、単純に同じ土俵で語ることはできない。各クラブが地域におけるアンバサダー的な役割も担う中で、一部のチームにトップ選手が集中するデメリットも考える必要はあるだろう。ただ、登録選手数がほぼ同じ(日本=約10万9千人、ウエールズ=10万8千人/World Rugby Year In Review 2019より)で、他のティア1国に比べて体格的に小柄という点でも共通するウエールズの手法は、参考にできる部分が多くあると感じる。