サントリーのエナジーとパナソニックのスマートさ。トップリーグ最終決勝の深層。
5点差を追うサントリーが最後の反撃に出る。自陣の深い位置からNO8のショーン・マクマーンが中央突破を決める。WTBの江見翔太が左端を駆ける。
捕まる。
パナソニックのWTBへ入るセミシ・トゥポウが、大きく駆け戻りながらのタックルで落球を誘ったのだ。
まもなくホーンが鳴る。パナソニックのSHである小山大輝が、相手SHの齋藤直人の圧力を受けつつ自軍スクラムからパスアウト。SOの山沢拓也が受け取った球を蹴り出し、青いジャージィがあちこちで飛び跳ねた。
5月23日、東京は秩父宮ラグビー場での国内トップリーグプレーオフ決勝では、パナソニックが随所に堅守を披露して31-26と勝利。敗れたサントリーなどに並ぶ史上5度目の日本一に輝いた。
HOで先発の坂手淳史主将は、大きな瞳をさらに見開く。
「プレー的な部分は高揚していて覚えていないところもあるのですが、(サントリーの)すごいアタックを僕たちのディフェンスで止め切った。そして、規律よくゲームを締めくくれた」
序盤こそサントリーが際立った。
自軍キックオフを確保するや陣地と球を支配。ニュージーランド代表SOのボーデン・バレットらの多彩な足技と、落下地点へのプレッシャーで試合を優位に運びかけてはいた。
SHの流大は「相手のバックスリー(後方の走者)は脅威でしたが、コンテストキックを蹴って競り合えばチャンスがある」と、接点の周りから高く蹴り上げた。その球をよく追ったWTBの中鶴隆彰も、自慢の攻撃力を披露するにはまず下働きとの認識を持った。
「競れるボールを蹴ってもらって競りにいくプランがあった。自分の仕事として(相手に)簡単にキャッチされないよう競りにいく」
惜しまれるのは、わずかなボタンの掛け違いが失点を招いたことだ。
前半5分、自陣10メートル線付近でのラインアウトからバレットが放った深めのパスを、対するCTBのディラン・ライリーがインターセプト。まもなくスコアは7-0となる。
キックチェイスで光った中鶴も、10点差を追う前半17分にはそのキックチェイスで悔やむ。
自陣から敵陣中盤まで流のキックを追いかけるも、坂手に走路を塞がれ対面の福岡堅樹の捕球と大幅なゲインを許す。この日限りで医学生の暮らしに専念する注目株の走りは、やがてパナソニックの猛攻を生む。サントリーはしばらく自陣に滞留し、25分、0-13と差を広げられた。
果たして陣取り合戦は、パナソニックが制するシーンが増えた。勝ったロビー・ディーンズ監督はこうだ。
「サントリーにキックを多く蹴らせたい狙いはありました。我々はこの試合に入るうえで、彼らにいい形で蹴らせないことを強く意識して臨みました」
後の勝者は防御でも光った。
13点リードで迎えたハーフタイム直前には、敵陣10メートル線エリア左でライリーが対面のCTBである梶村祐介に刺さる。倒す。すぐにFLの布巻峻介がジャッカルへ入り、ペナルティゴール獲得により23-7とリードを広げる。
後半は徐々に追い上げられるも、28-12で迎えた21分頃、ファンを安堵させた。自陣ゴール前の接点へ、防御網の後ろから躍り出た小山が絡みつく。攻撃権を得る。その約10分前からHOで登場の堀江翔太は、防御のリーダーとして笑みを浮かべた。
「あそこは、やってきたことを出したという感じ。あまり細かいことは言えないですけど、思った通り」
相手の主軸たるバレットに対しても、堀江は「(動きのなかで)『(バレットは)そこらへん、来るだろう』とも、キック合戦にもなるだろうとも話していました。そこまでプレッシャーを感じずにできたので、ディフェンスは機能していたのかなと」と動じなかった。
果たしてバレット本人は、時折ロングキックと鋭いランを披露も「(パナソニックは)がまん強く、規律があるチームでした」と白旗を上げる。10点差を追う前半17分にペナルティゴールを外すなど、ブレーキペダルも踏んだ。
「相手が防御のラインスピードを上げてくるのでエッジ(大外)まで運べず、こちらが真ん中で苦労するイメージ。なので、コンテストキックを蹴っていた(という側面もある)。サントリーとしてもがまんしてボールを展開していこうとしましたが、パナソニックにはジャッカルが得意な選手もいた」
勝ったディーンズ監督は、サントリーの大物を抑えたことに深い価値を見出す。
「バレットが大きなラインブレイクをすることなく試合を終えたことが、トップリーグのレベルの高さを証明したのではないでしょうか」
勝負のツボを押さえたパナソニックと、釣れそうだった魚を何匹も逃がした格好のサントリー。かような両者の実相があらわになったのは、後半33分だった。サントリーが19点目を奪って9点差に迫った直後のキックオフだ。
齋藤の素早いさばきで自陣から攻め上がるも、10メートル線を越える前に対するパナソニックのFL、福井翔大がジャッカル。足のつった松田の代わりに入った山沢がペナルティゴールを決め、31-19とシーソーを傾けた。
敗れたインサイドCTBの中村亮土主将は「アタックすればトライまで行けるというところもあったので…」と言葉を選ぶ。
「まずはボールキープという判断でした。ただ、時間もまだあったので、焦らずにキックをする、とも、話はしていました。最後に相手のペナルティを獲られたところは…パナソニックさんの強さかなと思います」
これにてトップリーグは閉幕。パナソニックは荒々しさと賢さを兼備した精密機器、サントリーは規則性と勤勉性のカクテルを売り物に計18シーズンを引っ張ってきた。2022年からの新リーグでも上位団体入りを果たし、新章を紡ぎたい。