国内 2021.05.20

クボタの新人・金秀隆、サントリーの「まとまりのあるアタッキングキック」を振り返る。

[ 向 風見也 ]
クボタの新人・金秀隆、サントリーの「まとまりのあるアタッキングキック」を振り返る。
サントリーとの準決勝で先発フル出場したクボタのFB金秀隆(写真提供:クボタスピアーズ)


 ノートには何と書いただろう。

 金秀隆は5月16日、大阪・東大阪市花園ラグビー場でトップリーグプレーオフの準決勝にクボタのFBで先発。9-26で敗れた。

「サントリーが蹴ってくることは試合前からわかっていたんですが、なかなか対応しきれない部分があった。そこが個人としての課題だと思っています。自分のキッキングスキル(を磨く)など、エリアで勝てるためのトレーニングをしていく。ポジショニングももっとよくできるところがあるので、いろいろとコーチに教わりながら、修正したいと思います」

 本人がこう悔やんだのは試合の3日後。チーム主催のオンライン取材でのことだ。

 サントリーとは4月3日のレギュラーシーズン第6節以来の対戦だった。東京・秩父宮ラグビー場で26-33と接近したその日と比べ、「(相手は)いろんなキックを使ってきたイメージがありました」と最後尾の金。向こうが擁するSHの流大、SOのボーデン・バレット、インサイドCTBの中村亮土主将といったニュージーランドと日本の代表経験者に、長短を織り交ぜたキックを蹴り込まれた。

「自分が深く(相手よりも遠い位置に)立っていたら(それとは逆の)浅めの位置にハイパント(高い弾道)を蹴ってきたり、真ん中にスペースが空いていたらバレット選手がそこに落してきたり…」

 11点差を追っていた後半11分頃、対する中村のキックが自陣ゴール前左隅をえぐる。もともと中央寄りに位置していた金は逆を突かれた格好となり、球がタッチラインの外へ出るのを見送った。

 クボタは直後のラインアウトからピンチの脱出を試みるが、結局は自陣でサントリーに攻め返される。防御ラインの立ち位置がペナライズされる。

 15分、バレットのペナルティゴールが決まる。9-23と点差を広げられるまでの間、金はこう感じた。

「スペースを見ながら蹴ってきたことに、対応できなかった」

 直後の自軍キックオフでゲームが再開されると、敵陣22メートル線付近中央あたりの接点からSHの流が高く蹴り上げる。金は自陣10メートルエリア左で捕球体制に入ったが、目の前にはサントリーの群れがキックチェイスに走ってきていた。

 クボタ側も、エスコートと呼ばれるキックチェイスを制御する役目の選手を揃えた。しかし、クボタのエスコートが2名だったのに対してサントリーのキックチェイスは4名。飛び上がってキックをキャッチしようとした金は、向こうの圧力を前に落球してしまう。そのルーズボールを流に拾われ、さらなるキックで自陣22メートルエリアまで入り込まれた。

 スコアが9-26となる、2分前の出来事だった。

 蹴った側の流は、やがて書面で「キックとキックチェイスは必ずセット」と回答。「個人の判断で蹴るにしろ、WTBの選手(おもにキックチェイスに走る味方)がそれを感じておかないといけない。皆が同じ絵を見られているからいいキック、いいチェイスができている」と続ける。

 蹴られた側の金も、ある意味では同意見だったようだ。

「1人がエスコートをしても、(相手は)2~3人で来ていた。(サントリーは)まとまりのあるアタッキングキックを蹴ってきた印象でした」

 身長186センチ、体重90キロの23歳。関東大学リーグ戦2部の朝鮮大から2020年にクボタ入りし、新人ながらレギュラーに定着していた。

 魅力は細やかなフットワーク、さらには振り返りの習慣だ。 

 大阪朝鮮中、高と競技を続けてきた金は、一貫して独自のラグビーノートをつけている。その日の反省点、好きな選手のランニングコースの図解で帳面を埋めた。

「自分自身、そんなにうまくはなかったんですけど、ラグビーがむちゃくちゃ好きで…」

 トライアウトを経てプロとなったいまも、コーチ陣のレビューをつぶさに記す。その流れで今度苦しんだキック処理のほか、肉弾戦への耐性も改善したいと話す。

 最後は悔しい結果に終わったトップリーグでの戦いは、すでに相対化しているのだ。

 現行制度下初の4強入りを受け、こうも述べる。

「クボタのベスト4という歴史を作れ、その一員として戦えたことが嬉しかった。(クボタには)新人の自分が意見しやすい部分はありました。誰でも意見を言い合える文化がクボタの強みだと思います。フラン(・ルディケ ヘッドコーチ)、立川(理道)主将、リーダー陣が(意見を)受け入れてくれて、チーム内に浸透させてくれる。その部分では本当に助かります」
 
 在日3世であるのが誇りだ。クボタ入り後に得た初任給を使い、朝鮮大、東京、大阪、愛知の朝鮮高校のラグビー部員へノートとマグネットを寄贈した。信じた道を突き進むなか、後を追う後輩が増えればなお嬉しい。

 下部リーグから日本最高峰の舞台へ挑んだ立場から、高い壁を乗り越えようとする若いアスリートにメッセージを。そう問われれば、簡潔に締める。

「自分もまだまだなんですけど、チャンスは転がっているとは思う。それを活かし切るために練習をしっかりして、アピールをしていって欲しいです」

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