パナソニックは「高いモラル」で堅陣敷く。15日、トヨタ自動車とプレーオフ準決勝。
パナソニックのベンチ勢がグラウンドへ身を乗り出す。
5月8日、埼玉は熊谷ラグビー場。国内トップリーグプレーオフの準々決勝の後半17分である。
今季限りで引退の福岡堅樹が、キック捕球後の攻めでパスを得るやキヤノンのタックラーを1人、2人とかわす。約80メートルを駆け抜ける。味方も驚くトライでスコアを25-10とし、最後は32-17で準決勝進出を決めた。
現在は医大生でもある元日本代表WTBへ、日本代表21キャップ(代表戦出場数)を持つHOで目下欠場中の坂手淳史主将は敬意を表する。
「走るスピードは変わっていませんけど、車の走るスピードは変わっているかもしれないです! 堅樹はあまりしんどそうな顔をしていないです。スケジュール的には(以前と)少しは変わっているとは思いますし、さっき冗談で言ったように(群馬県内の練習拠点と都内の大学を移動するため)車の走行距離は増えているはず。それでも足の速さが変わっていないということは、コンディションの作り方がしっかりしているのだろうと思います」
福岡は防御でも魅する。接点で球に絡み、反則を誘う。
そもそも堅守はパナソニックの看板だ。孤立したランナーへのジャッカルはポジションを問わずに繰り出す。その場で球を奪えずとも、周りが声を掛け合い横一線の守備網を敷く。
20-3としていた前半終了間際は、自陣ゴール前で相手の連続攻撃へ圧をかける。
途中、FLのベン・ガンターが好ジャッカルも、その下敷きになっていたLOのヒーナン ダニエルがその場を撤退しなかったために反則を取られる。
すると、直後の守りでマイナーチェンジの感を覗かせる。
直後の相手ボールスクラムからの攻めをしのぐや、自陣中盤の防御では接点へのアプローチを最小化。タックルをした選手がすぐにその場を離れ、壁に入る枚数を増やす。
最後は接点を乗り越えるカウンターラックで難をしのぎ、ハーフタイムを迎える。
FLとして日本代表7キャップの布巻峻介はこうだ。
「しっかり(ランナーに対して)1人目が相手を(タックルで)倒して、2人目がブレイクダウンに入って(相手に球を出させるまでの)時間をかける。そして、3、4人目の判断を正しくすることで、次のフェーズでもいいディフェンスができる。全てへやみくもにジャッカルに行くのではなく、本当の(ボールを奪える)チャンスの時まで個々がいい判断をすると、ずっと皆が動ける状態でディフェンスができる…。目の前の(一見するとボールを奪えそうに映る)チャンスに飛びつくんじゃなく、後々、いい結果が得られることを信じ、ペナルティをせずにディフェンスをやり切る…。そう意識しています」
この午後、キヤノンは工夫を施していた。
自軍キックオフは中央の浅い位置へ浮かせて再獲得を目指し、概ね狙い通りとした。
強力なランナーを縦一列に並べるような攻撃ラインこそパナソニックの出足に阻まれたものの、グラウンド両角の穴を突くキックはスコアを生んだ。
福岡のトライが生まれる10分前だ。FBで日本代表4キャップの小倉順平が蹴ったボールを、エスピー・マレー、マイケル・ボンドがチェイス。カバーが回る前に自軍ボールを確保し、最後は日本代表63キャップを持つSOの田村優主将がフィニッシュしている。
5月15日の準決勝に進んだパナソニックにとっては、穴を突かれた格好か。しかし、同部所属のSOで日本代表24キャップの松田力也はこう振り返っていた。
「キックオフは研究され、狙われていたと思いますが、もし(球を)取られても強みのディフェンスがあると自信を持っていた。パニックにはならなかった。キック処理のところでもコミュニケーションは取れていた。少しの判断が合わないところがあったのですが、問題はなくて」
2020年の国内ラグビーシーンは、新型コロナウイルス感染症の影響で停滞感を漂わせた。もっともその潮流は、長らく多くの日本代表選手を輩出してきたパナソニックにとって悪いことではなかった。堅守を支える戦士の関係性について、2014年就任のロビー・ディーンズ監督はこう話す。
「何よりもチームの成長に役立っているのは代表選手などの主力が長くチームにいてくれていること。彼らがチームと行動する時間が長ければ長いほどチーム力は高くなると感じています。ヒューマンダイアログ。人間関係、目に見える要素、見えない要素を含め、チームの関係性はいい状態です。ラグビーは究極のチームスポーツ。チーム内の連携が大事です。我々はチームのつながりを本当に大事にしてきていて、多くの時間を割いてきています。チームのモラルはいま、高い状態にある。試合を観に来るお客さんにとってはメンバーの23人に目がいくと思いますが、そのグループはその3~4倍の選手とスタッフに支えられています。我々はオン、オフフィールドとも大切に考えています。低い水準に流れてしまうのが人の常ですが、常に高い水準でいられるよう努めています」
5月15日、プレーオフの準決勝でトヨタ自動車とぶつかる。坂手やWTBの竹山晃暉が先発から外れたことへは、メンバー発表の前にこう述べていた。
「坂手はこの後、代表戦があり、竹山も将来が有望。チームおよび個人にとって最適な判断を毎週、していきます。コンディションが万全なら起用もありうる」
向こうが擁するニュージーランド代表127キャップのキアラン・リード、オーストラリア代表105キャップのマイケル・フーパーはそれぞれ先発のNO8、リザーブのFLとしてスタンバイ。ディーンズ監督はこの両者をニュージーランドのクルセイダーズ、オーストラリア代表で指導しており、指揮官は「高いレベルでやっていると一緒にプレーしていた選手が相手になることはある。コーチ冥利に尽きます。再会を楽しみにしています」とも話している。