国内 2021.04.29

学生が決めた創部93年目の再スタート。東京外語大学ラグビー部は改革進行中

[ 多羅正崇 ]
学生が決めた創部93年目の再スタート。東京外語大学ラグビー部は改革進行中
練習後の集合写真。ボールを持っている中央の選手が大沼キャプテン
一発芸を披露して笑わせるラオス語専攻のSH窪田悠
グラウンドは調布飛行場、朝日フットボールパークのすぐ近く


 学生主体で“リーグ移籍”を決めたのだから凄い。

 日本唯一の国立外国語大学である東京外国語大学は、東京・府中にキャンパスを構え、ラグビー部は創部1929年と由緒正しい。これまで全4チームの地区対抗リーグ関東1区で戦ってきたが、2021年度より、関東大学リーグ戦の5部から再スタートを切る。

 ロシア語専攻のNO8大沼六旺(おおぬま・りくおう)キャプテンが、経緯を教えてくれた。

「2020年はコロナ禍もあり、試合機会がほとんどなくなってしまいました。部員同士で『良い機会だからラグビー部を抜本的に変えてみよう』と話し合い、試合数が見込める関東リーグ戦に移ることを決めました」

 部員は学業に励みながら週4回のチーム練習に励んできたが、参加していた関東の地区対抗リーグ(全国地区対抗大学関東1区)の昨年の参加校は4大学。競った試合は1年で2試合程度だったという。

 東京外大は2時間のチーム練習は週4回行っている。学業に励みながら少なくない時間をラグビーに費やしており、発表の場を求める気持ちは当然だった。反対意見もなく、東海大など全国強豪が頂点(1部)に在籍する関東リーグ戦の5部を新天地に選んだ。

 現役部員から「リーグを移りたい」という提案を受けたOB会長の南潤一郎さんは「やるべき」と思った。南さんは、ロンドン在住の日本人ラグビーチーム「ロンドンジャパニーズRFC」の元キャプテンでもある。

「現役がリーグ戦に挑戦したいなら全面的にバックアップしようと思いました。それからは世界に散らばっているOBに連絡を取るなど、OB会の整備に取り組んでいます。OBにできることはお金を出すことくらいですから」(OB会長・南さん)

 外語大OBは、商社マン時代にロンドンに駐在した南さんなど、語学力を活かして国内外で活躍する。多くはラグビーをツールにして現地で交流を深めるが、中にはロシアで州代表になったOBもいるという。
 そんな多彩なOBの力を結集して、現役の果敢なチャレンジを応援したい——。今年からはリコーでプレーした勝利規さんをコーチに招き、技術面の指導も仰いでいる。

 ただ東京都北区に校舎があった頃から、東京外大は伝統的に学生主体だ。OBの古本晃監督(在学中は中国語専攻)はいるが、「私はOB会との窓口役をしたり、整理しなければならないことをやる裏方です」(古本監督)。試合出場メンバーも学生幹部が決めているという。

 本物の学生主体だから、改革はスピーディーに進んでいる。

 リーグ移籍の他にも、今年からは雑用を縦割りの4グループで担当することにした。

「特定の部員に負荷をかけるのは避けています。練習の準備は4グループの縦割りにして、順番に担当するシステムに変えました。遠くに住んでいる部員は、昼13時からの練習に割り当てたりもしています」(大沼キャプテン)

 従来の「マネージャー」という呼び方も「スタッフ」に変えた。

「ウチのスタッフさんはトレーナーやレフリーの資格を持っていたり、帳簿をつけて資金の透明性を保ってくれたりと、『マネージャー』よりも『スタッフ』という呼び方が適切だったので、今年から変えました」(大沼キャプテン)

 そのスタッフの一人で、全体統括の山内亜美さん(3年)は「いまは自分がやりたいことがなければやることがない状況で、自分で自分の役割を見出しています。改革が進んでいて、頑張っているみんなを応援することがやりがい」と語ってくれた。

 そのスタッフを含めて部員は約30人。最低限の上限関係はあるが、グラウンドでは敬語を控えるなどフラットな関係を心掛ける。
 だから練習は和気あいあいとして、笑いが絶えない。スタッフの山内さんは「ラグビー部の空気が好き」と言う。冗談めかして「ラグビー部がなければ学校に来ていない」と笑う部員もいた。一生モノの絆がここにもある。

 そんな部員の多くは大学からラグビーを始めた。

 4年生も4人中3人が他競技からだ。
 キャプテンのNO8大沼はキックボクシング。タックルが武器の副キャプテン、FL靍田桂士(中国語)は剣道とバドミントン。父もチームOBであるPR深澤竣介(ロシア語)は野球。唯一、日本では東京外大にしかないラオス語専攻のSH窪田悠が、西東京ラグビースクールで小学校からプレーしていた。 

 今年は「礎」をスローガンに掲げて、初参戦の関東リーグ戦5部を戦う。4人の4年生は礎となり、人数が多く有望な1学年下に新たなステージを託すつもりだ。

「目標は4部昇格。あとは大阪大学との定期戦に勝つことです。しっかり頑張って強くなった、というところをOBの皆さんにも見せたいです」(大沼キャプテン)

 4部昇格を目指す以上は、厳しさも必要になる。でも大好きなラグビー部の仲間となら、どんな困難も乗り越えていけそうな気がする。
 東京外大のサインプレーには、世界の都市名が入っているものがある。関東大学リーグ戦5部の試合会場で「ダッカ!」「ベンガル!」と聞こえたら、彼らが東京外大ラグビー部だ。


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