女子 2021.03.24

ピッチ外でも人生が豊かに。英国で見つけた新たな価値観。鈴木彩香(ワスプス・レディース)

[ 編集部 ]
ピッチ外でも人生が豊かに。英国で見つけた新たな価値観。鈴木彩香(ワスプス・レディース)
ホームグラウンドへやって来た加藤幸子(中央)、ワスプスのチームメートと。(本人提供)



 ひとことで言えば、「人生が豊かになった」。
 現在、ウエストロンドンのアクトンに暮らす鈴木彩香は、穏やかにそう話す。
 脳震とうの影響で、3か月もプレーできていない。それなのに、自分自身が前進できていると感じられている。

 女子日本代表のベテラン(アルカス熊谷所属)は、昨年11月15日に日本を発った。プレミアシップのワスプス(WASPS LADIES)に所属し、プレーするためだ。
 2021年9月に開幕するはずだったワールドカップ(以下、W杯)に向け、ハードな戦いの中に身を置くことにした。女子日本代表ヘッドコーチ、レスリー・マッケンジーの後押しもあった。

 31歳。セカンドキャリアの準備として、指導者になる未来像も頭にある。その基盤作りも進められればいいな、と思って渡英した。
 しかし、ワールドカップは2022年に延期となる。「正直、戸惑いました」と言った。
 大会時に最高のパフォーマンスを出すためのプランニングを描いていた。W杯は、自身の人生の節目と考えていた。
「考えていた計画を、すべて考え直さないといけなくなりました」

 サポートを受けていた東京日野自動車との契約も、この3月で終了する。
 W杯までは蓄えてきたものでなんとかしようと思っていたが、大会が1年延びたとなれば、そこで最高の自分を発揮するためには、それなりの資金が必要となる。
 プレーヤーとしての向上とセカンドキャリアの準備、スポンサー探し。それらを、異国の地で並行して進めるのは簡単なことではない。

 そんな状況でも、人生が豊かになった。充実している。そう言い切れるのは、仲間の存在があるからだ。多くの気づきをもらった。
 フラットに5人で暮らす。
 自分のほか、チームメートはアイルランド出身で、他の住人は南アフリカ、コロンビア、チェコからやって来た。
 みんな、それぞれの生き方を持っている。
「チームメートは科学者です。いまはラグビーに専念していますが、(まだ若いのに)W杯が終われば仕事に戻る。ラグビーは大好きだけど、他にもやりたいことがたくさんあるから、と」

 彼の地では特別なことではない。
 代表レベルの選手はプロ契約で生活しているが、そんな一部の選手以外は自分のしたいことをしながらプレーし、高い競技レベルを維持している。
 チームメートの日常と最近の日本の女子選手たちの境遇(クラブが雇用先を斡旋することもある環境)を比べた時、「日本の方がいいじゃん、と思ったんです」。
 それなのに、両者の実力を比べれば日本は追いついていない。
「こちらに来るまでは、指導や練習の違いなどに理由があると考えていたのですが、そうでなく、選手一人ひとりのラグビーとの向き合い方にあるのではないかと考えるようになりました」

 本当にそれが答えなのかは分からない。
 だけど、自分がイギリスに来て感じたことを伝えていけば何かが変わるかもしれない。
 現在の環境ではなかった頃から日本の女子ラグビー界で生きてきた。伝えられることはたくさんある。
「アスリートは、結果でしか(周囲やサポートしてもらっている企業に)貢献できないと考えていたかもしれません。実際、自分自身、それ以外に価値提供をできていなかった」
 アスリートが企業に寄りかかる構図を、自分から変えていきたい。積極的に発信して、まずは同じ世界に生きる人たちに影響を与えたいし、その先に、女子ラグビーが社会に影響を与えられるようになったら幸せだ。

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