国内 2021.03.12

初の同級生対決から20年。NEC吉廣広征がヤマハ五郎丸歩とのラストゲームを語る。

[ 明石尚之 ]
初の同級生対決から20年。NEC吉廣広征がヤマハ五郎丸歩とのラストゲームを語る。
FB吉廣広征はPRタキタキ エロネとともにチーム最年長の35歳(撮影:大泉謙也)

 初対戦から20年。
 もしかしたらこれが最後の対戦になるかもしれない…。
 これまで何度も戦ってきたけれど、こんなに楽しみに感じたのは初めてだった。

「ずっと意識してきたプレーヤー。別次元で楽しみでしたし、かなり高いモチベーションで試合に臨みました」

 NECグリーンロケッツのFB吉廣広征は、35歳の同級生対決に燃えていた。
 その相手は今季限りでの現役引退を表明している、ヤマハ発動機ジュビロの五郎丸歩。
 4月から始まるプレーオフで当たらなければ、これが本当に最後だ。

◆吉廣のファンが「妥協を知らない男」の横断幕を掲げる

 トップリーグの第3節、NECとヤマハの対戦が3月6日、秩父宮ラグビー場でおこなわれた。吉廣は3戦連続でスタメン出場。五郎丸は今季初先発だった。

「(五郎丸は)最初の2試合に出てなかったけど、絶対出てくると思った」

 試合はNECのトライから始まった。開始2分、ラインアウトからCTBベンハード・ヤンセヴァンレンスバーグがラインブレイク。外側でパスを受けた吉廣はスピードを調節し、WTB宮島裕之へラストパスを放つ。準備してきた形でいきなりトライを奪った。

 その後は逆転を許し、7―26と引き離されるが、反撃は前半37分。再びラインアウトが起点となった。SOアレックス・グッドから飛ばしパスを受けた吉廣は五郎丸と対峙。ステップで翻弄し、外側にいた宮島のトライにつなげた。
 吉廣は試合終盤にも宮島のハットトリックをお膳立てしている。

 NECは31―59で敗れたが、吉廣はマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた五郎丸に引けを取らない活躍だった。
「(自分の役割として)大事にしているのは、10番のグディーのイメージを共有すること。特に10、12、13番は外国人選手で並ぶので、そこにどうしてもマークが強くなる。グディーとコミュニケーションを取って、どうやって外側の日本人選手でもらうかを意識してます。2トライ目もサインプレーではなく、グディーとその時の会話で(咄嗟に)生まれたものでした。(WTBの)宮島が3トライできたので、そこは自分の役割を全うできた」

 五郎丸との最後の戦いを終え、「終わっちゃったなーという感じです。ラグビーっていいなぁと思えた」とほほ笑む。
 初めての対戦は、高校の夏合宿の1年生試合だった。吉廣は桐蔭学園、五郎丸は佐賀工。五郎丸の名はすでに売れていた。
「僕はただの同い年で、五郎丸は誰もが知っていたし、すでに注目されていました」

 そこから互いに大学、トップリーグと進んでも、吉廣にとって五郎丸は意識せざるを得ないライバルだった。
「高校でも大学でも勝てませんでした。個人としても、2人の評価で勝った方がユースの代表とかフル代表になれる。お互い試合に出ても選ばれるのは1人なので、ずっと負けていた。ワールドカップやラグビー界への姿勢を見て、もちろんリスペクトしてるけど、プレーヤーとしてはずっと意識する存在でした」

 長年、挨拶を交わすだけの関係だったが、5、6年前に互いの同期である権丈太郎(吉廣はNEC、五郎丸は早大で)のつながりで、杯を交わす仲になれた。
 最後の試合後もジョークを交え、少しだけ話した。

五郎丸『まだやんのー?(笑)』
吉廣『(試合終わって)こんなに体がきつかったらできないかもねー(笑)』

 五郎丸は3月1日で35歳を迎え、ヤマハ加入時に心のどこかで決めていたという、「35歳の節目」に突入した。五郎丸はいまの心境を記者会見で話す。
「今年をラストと決めていますから、ネガティブなこともポジティブなことも、全ての時間を楽しめています」

 一方の吉廣は自身の進退についてこう考えている。
「そもそもはスポーツマネジメントやビジネスを学びたくて大学院に行くことが決まってました。でも大学4年でNECから声をかけてもらって、急遽ラグビーを続けることになった。ただ自分は有名選手でもないし、長くできると思ってなかったんです。4、5年くらいでやめると思っていたので、ここまで来ると五郎丸みたいにやめ時とかよくわからくなってきて…(笑)」

 先発で出ている以上、いま吉廣がフォーカスするのは自分の進退ではなく、チームの勝利なのだ。「今はとにかく勝ちたい。まず一勝」。

 昨季は6試合戦って全敗だった。W杯前におこなわれたトップリーグカップ2019以来、勝ち星は遠ざかっている。今季もここまで3連敗を喫しているが、手応えはある。
「アタックは去年に比べてかなり良くなってる。1試合平均のトライ数も2倍以上。リズム良くボールが出れば、神戸さん、ヤマハさんにもスコアできた。
 去年とは全然違う。去年はまず次に何を直していいかがわからなかったけど、今は自分たちの直すところが分かっている。いまはターンオーバーされる数が16チームで1番多くて、そういう自分たちで変えられるミスで失点されているので、そこを改善したい」

 3月13日におこなわれる第4節は、今季唯一のホーム戦。柏の葉で日野レッドドルフィンズを迎える。
「日本代表はいないけどファンサービスに対して、ファンの方々は温かく接してくれる。勝つことが1番の恩返し。ファンの前で勝利を見せたい。見てもらいたい」

 3月6日は五郎丸が秩父宮に来た3760人を喜ばせた。
 次は吉廣が柏の葉に駆けつけるファンに久しぶりの勝利を届ける番でありたい。

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