【ラグリパWest】強豪に変わるあしおと。 和歌山工業高校 [和歌山県]
深紅のジャージーをつないできたのはOBの山下弘晃である。豊橋技術科学大に進み、産業デザインを教えている。今年58歳。WTBだった高校時代を含めると30年近くチームに関わってきた。橋脇も岡本も教え子である。
「最近は鍋ジジイになっていますね」
部員たちの練習後の食事を担う。合同チームとの試合前日にはイノシシ肉の入ったぼたん鍋とうなぎ丼を作った。
1時間程度の朝練習の後にもパンが出る。OB坂田輝之がオーナー兼職人をつとめる「パン工房 アンファン」から届く。坂田は69回大会にSOとして出場した。
間に入っているのは山下である。朝夕の補食はすべて寄付で賄われている。
OBが顔を出しやすい環境もこのチームの特長だ。山下は優しく迎える。
「ウチは最終学歴がワコーの子が多い。帰る家を作っていければいいな、と思っています」
試合前日は、金曜日に関わらず地元で働く者を中心に4人が練習に参加した。現在の部員は25人(新3年=10、新2年=15)。実戦により近づいた練習が可能になる。
遠征用の44人乗りの大型バスを支援学校から譲り受け、運転するのも山下。FacebookやInstagramなどを使い、情報発信もする。
マネジメントを一手に引き受ける。
新主将は栗田優星。170センチ、81キロのHOはチームの目標を口にする。
「花園で3回戦に進出することです」
橋脇は新主将が中心になる戦い方を定める。
「FWを軸にエリア取りをしたいですね」
県勢としても未知の領域に到達したい。
今、和歌山は三つ巴の状態だ。
100回大会は熊野、その前は近大和歌山が出場権を得た。前者は高校日本代表のコーチ経験がある瀬越正敬、後者は天理大出身の田中大仁が率いる。ワコーは2年間の決勝で0−27、7−26とそれぞれ敗れている。
新チームは3年ぶりの復活がかかっている。
栗田はもうひとつの目標を挙げた。
「社会に役立つ人間になることです。僕も就職するつもりですから」
岡本が補足する。
「山下先生はいつも、それが強くなる早道だ、と言っています」
栗田は自転車で2時間以上かけて登下校している。その努力を形にしたい。
山下は言う。
「これから勝ってくれるでしょう」
土台は整えた。橋脇がレフリーでも得る最先端のラグビーを落とし込む。岡本、女性顧問で理科を教える土谷浩美もいる。
1月23日の準決勝も和歌山北を66−14で降した。強豪に変わるあしおとが響く。