コラム 2021.01.08
【コラム】ラストワンプレーの逡巡

【コラム】ラストワンプレーの逡巡

[ 野村周平 ]

 脳振盪の危険性は去年のこの時期にも当コラムで触れた。大切なことなので、何度でも書く。安全対策として花園では、W杯やトップリーグで採用されている「HIA」(ヘッド・インジュリー・アセスメント)ではなく、「R&R」(リコグナイズ&リムーブ)を採用している。ドクターが脳振盪の疑いと判断したら、すぐに選手を退場させるシステムだ。

 10分の確認の間、一時交代を認め、安全が確認されたら試合に戻れるHIAより、R&Rの方が安全性はより担保される。多くの専門家はそう言う。2度目の脳振盪を起こすと危険な状態に陥る可能性が高くなる「セカンドインパクト」を避けられるのが主な理由だ。

 だから、あの交代は納得がいった。花園の歴史に残るであろう試合の佳境で、中心選手の一人を代えた監督の決断の尊さを書き残したいと思った。2日後、湯浅監督に話を聞いた。あの時、どんなやりとりがあったのか。

 湯浅監督はドクターから倉橋について「ワンプレー(の間)、状態を見たい」と言われたという。ワンプレー? 試合が途切れれば、その時点でノーサイドとなるのは明白だった。なのに、ワンプレーとはどういう意味か。ドクターも判断を迷っているのか。

 瞬間、指揮官は逡巡する。倉橋は質問に的確に話しているように見える。もっとラグビーがしたい、何としても勝ちたい、という意欲は彼の表情から伝わってきた。ただ、選手たちの心身は極限まで張り詰めている。ドクターの判断を待つ間、14人で戦うのか。それは東福岡に対して失礼にあたる。倉橋の将来のことを考えても、すぐ代えるべきだ。

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