高橋広大寮長は「もう1回、4年生から」。2020年度12月の明大ラグビー部。
よく言えば特徴的。裏を返せば…。
明大ラグビー部の高橋広大が、愛すべき同期の4年生について述べる。おもな話題は、自身が務める寮長の仕事についてだ。
「僕らの代は個性が強いというか、まぁ、よくないふうに言えば悪ガキのようなところがある。グラウンド面では他のリーダーがいるので、私生活の面では僕が言うことを言う。自分にも周りの皆にも厳しくしています」
確かに入学時は、グラウンド外での行動が指摘されることもなくはなかった。高橋は、「いまの1年生が自分たちのようであればがまんならない」との意味合いをくだけた調子で述べる。
いま感じるのは、当時の上級生たちへの感謝の念だ。
1年時の主将で同じ桐蔭学園高卒の古川満には、同部屋で懇意にしてもらえた。自分たちの控えチームの試合もよく観てくれて、いいプレーは褒められた。19シーズンぶりに大学選手権の決勝へ進んで卒部する際は、残された自分たちへエールを送ってくれた。
一昨季は、福田健太主将と同じ空間で暮らした。加盟する関東大学対抗戦Aで2敗しながら22季ぶり13度目の日本一に輝くまでの過程、特にシーズン終盤に4年生が結束する様子に皮膚感覚で接した。
昨季は射場大輔寮長のもとで副寮長を務め、いざラストイヤーを迎えれば試練に見舞われる。
4月には東京・八幡山に住む全部員のうち、下級生を中心に過半数が帰寮する。箸本龍雅主将らと連日ミーティングをし、制限下におけるありかたを考えた。
12月19日の大学選手権準々決勝を前日に控え、当時を思い返す。
「スタッフの方もあまり来られないなか、少しでもレベルアップできる期間にしたいと思いました。最初は、寮に残っていた何人かの1、2年生が(自主的な)練習で遠慮しているように映りました。そこで僕たちは『寮に残っているのだから、この時間を大事にしよう。グラウンド内では学年に関係なく思い切りやって、先輩にも指摘して欲しい』と伝えました。いい期間だったと思います」
今度、東京・秩父宮ラグビー場で戦う日大は、関東大学リーグ戦3位の成長株だ。特に両端のWTBにはタックルのしづらい水間夢翔、ストライドの大きなナサニエル・トゥポウといった好ランナーを揃える。
明大の田中澄憲監督はこう見る。
「WTBの決定力はある。そこにいいボールが回る、整備されたいいアタックをしています」
勝敗のポイントを問われれば「ディフェンス」と指揮官。接点周辺でのぶつかり合いで前に出られたり、留学生の突破を許したりすれば、波状攻撃を仕掛けられるかもしれない。向こうの強みを発揮させないためには、全ての起点となる1対1の局面で相手を押し返したい。
そうであれば、高橋はキーマンの1人となりうる。
当日は背番号5をつけ、ぶつかり合いの多いLOで先発する。身長184センチ、体重101キロ。タフなタックルを連発する。
「個人的には痛いプレーは好きというか、強みだと思っている。自分が前に出るプレーをできればチームも勢いづく」
対抗戦の終盤では、帝京大、早大といった優勝候補に連勝した。好調ぶりを覗かせる。ただし足元をすくわれることのないよう、試合出場組は日々の練習を映像でリチェック。次の対戦相手の試合も確認し、試合当日の行動規範も整理する。
最近では、流れが悪いなかで円陣を組む場合は箸本主将、3年生SHの飯沼蓮ら限られた意思決定者だけが発言するよう定めた。「他に話したいことがあれば各自で」と高橋。有事にもパニックに陥らぬためだ。
「去年はそこまで選手が自主的に話し合う機会は少なかったですが、今年はそこに意識して取り組んでいて、(直近の)早大戦ではそれがいい形で出た。自分たちでラグビーを考える時間は、夏くらいから増えてきたと思います。…準々決勝を勝たないことには、その先はない。準決勝、決勝を見るのではなく、日大にすべてをぶつける。分析もしっかりおこなってきました。あとは試合で100パーセント、出すだけです」
2季ぶりの大学選手権制覇を目指す明大はいま、最上級生を軸に一枚岩となりつつある。大きなターニングポイントは、11月1日にあった。
その日、チームは今季初黒星を喫した。東京・秩父宮ラグビー場で、前年度の大学選手権出場を逃した慶大に12-13と敗れたのだ。
NO8として活躍の箸本は、その後に開いたミーティングで大いに反省した。
選手が身体のケアをするトレーナールームで用具がやや乱雑に置かれていたり、コンセントに充電器が差し込まれたままだったりするのを、「このままでも部屋は使えるけど、これが日本一のチームか?」とスタッフに指摘された。
整理整頓が疎かになっていたこと自体はもちろん、そのことに自分で気づけなかったことが「恥ずかしかった」。就任3年目の田中監督は、「最近、なぜ優勝争いができるようになったか。トレーニングだけが理由じゃない」と述べたものだ。
寮長もまた、心を新たにする。
攻撃組織、接点の質といったオン・ザ・ピッチの課題を修正するのみならず、生活面における規律を見直した。
「もう1回、4年生からしっかりやっていこう」
練習後のグラウンドでは、4年生のレギュラー選手が率先して片づけをするようになった。ポールに巻かれたカバーを外し、おもにテーピングのくずを入れるごみ箱、練習用の道具を所定の位置に戻す。
チームはかねて、八幡山エリアの外へ出るのを原則禁止としてきた。新型コロナウイルス感染症対策のためだ。2年生レギュラーの1人は証言する。
「自分たちに外出したい気持ちがあっても、4年生がちゃんとしてくれている。この4年生にはついていこうと思える」
かつてあったとされる前時代的な因習は、丹羽政彦前監督が就任した2013年頃から、それらは段階的に撤廃していった。2018年度に田中監督が就任する前後から、グラウンド内外で献身する習慣が根付き始めた。
箸本や高橋の代が先輩から怒られていた2017年度は、田中監督がヘッドコーチとして入閣したシーズンだ。2020年度の最上級生は、クラブが本当のプライドを築くのに密接に関わったと言える。
仮に「悪ガキ」のようだったとしても、よりよく生きようとしてきた。
「挨拶とか、最低限の上下関係は必要。でも、グラウンド内で意見を言い合うことがチームを伸ばすのに大事です。下級生も委縮せず、どんどん活躍する文化ができてくればと思っています」
学生生活最後の大学選手権のさなか、寮長はチームへ残す遺産について話した。晴れて日本一となって就職してからも、格好いい母校を見続けたい。