国内 2020.12.18

初先発間近の早大・伊藤大祐。目標を叶えるふたつの「逆算」。

[ 向 風見也 ]
初先発間近の早大・伊藤大祐。目標を叶えるふたつの「逆算」。
早稲田大学の伊藤大祐。11月23日の早慶戦で大学公式戦デビュー(撮影:松本かおり)


 狭き門へ挑む。

 大学選手権2連覇を目指す早大ラグビー部で、今季初先発を間近に控えるのは伊藤大祐。昨年度の全国高校ラグビー大会で日本一となった桐蔭学園の前主将だ。

 鋭い仕掛けが得意な身長179センチ、体重85キロのルーキーは、故障に泣いた。関東大学対抗戦Aが開幕した10月4日時点では離脱中で、相良南海夫監督はカムバック後の起用について悩む様子だった。

「復帰しそうな時期が大事な試合の時期。能力は高いですが、ユニットで動いてきた期間は短いので…」

 もっともこの人は11月23日の慶大戦で途中出場を果たし、強烈なプレッシャーをいなして突破(東京・秩父宮ラグビー場/〇22-11)。対抗戦を6勝1敗の2位で終え、大学選手権の準々決勝では背番号12をつける。

 けがをする前の時点で、確かな成長を実感している。聡明さがにじむ。

「春は、高校時代に気付けなかった課題に気付けました。パスにしても、キャッチにしても、ポジショニングにしても、まだまだ正しいプレーができていなかった。強みのランはそのままに、パス、キャッチ、ポジショニングのレベルを2つくらい上げて、ゲームメイクもしっかりして、最終的に自分のランを活かす。そうすれば大学レベルでも通用する」

 話をしたのは今夏。社会情勢にならう形での一時解散を経て、再始動したばかりの時期だ。練習動画のレビューやコーチ陣からの指摘を受け、基本技術やボールを持たない時の動きを見つめ直してきた。

 例えばもらったボールをすぐにさばくなら、自分のパスの受け手がタックルされないよう目の前の防御をひきつけたい。

 例えばランで局面を打開したいなら、自身の手前に立つ味方に相手防御の気をひいてもらうのがよい。

 伊藤が意識する「ポジショニング」とは、概ねそういう領域の話だ。

 おりしも南半球では、国際リーグのスーパーラグビーへ加盟するチームが各国で公式戦を再開していた。19歳は嬉々として語る。

「そうした新たな眼でスーパーラグビーの選手を見ると、ポジショニングもしっかりしている。自分もそういうところから、やり直したいです」

 人と違う道を歩んできたのをかすかに誇る。

 小学1年で地元・福岡のりんどうヤングラガーズと出会い、筑紫丘ラグビークラブジュニアスクール在籍中の中学2年時には福岡県ラグビースクール選抜へ上級生に混ざってリストアップされた。

 この集団は東福岡高のグラウンドでよく練習するため、進学先も定まりがちだ。ただし伊藤は中学3年の夏頃、神奈川の桐蔭学園高への進学を検討する。

 決断の背景には、ふたつの「逆算」があった。

「日本代表になる目標があった。そのためには桐蔭に入って、早大に入って…というの(思い)があった」

 まず自分が日本代表へ入るなら、歴史的に創意工夫を是としてきた早大へ行くのがよいと直感した。

 さらに望んだ通りの道を歩むなら、早大への入学者が多いうえ「いろんなところからボールを動かし、そこへ判断を付け加える」という桐蔭学園へ行くのがよいと思った。

 かくして16歳の誕生日を迎えるより約3か月も前に、実家を離れる。日体大に進んでいた姉の優希が住む神奈川県へ、母とともに移った。

「自分のやりたいラグビースタイルに合っているのは、桐蔭なのかな。(早大へ進みやすそうに見える点を含め)いい点がふたつあった」

 いま目指すのは仲間との連係強化、ひとつひとつの勝利、さらには代表入りだろう。高校3年時は司令塔のSOを全うも、現在はチャンスメーカーのCTB、最後尾のFBを含めた計3つの働き場を回る。ユーティリティBKだ。

 置かれた立場を、伊藤は前向きに捉える。

「代表を考えた時、ひとつのポジションしかできないのでは厳しい。僕の場合は3つ、できるようにしたい。器用貧乏になる可能性もありますが、ならないようにする。ポジショニング、ボールを持っていない時の動きといった基本はどこのポジションでも一緒だと思います。そこはまたまだ身についていないところもあるので、しっかり学びたいです」

 昨秋のワールドカップ日本大会に出た日本代表で、大学生は1人もいなかった。伊藤は2023年の同フランス大会時に大学4年生だ。険しい条件が課されていると言える。

 それでも、いま学んでいる技能を目標達成へつなげる。その決意は固い。

「(大学レベルでは)ずば抜けるということも必要。そこまでの逆算として、今年はチームの中心となれるようにしたいです」

 思い描いたよりやや遅く来たであろう初先発の機会は、現時点での技能を明確化する絶好機と言える。夏場にはこうも言っていた。

「チームにも貢献できるようになりたいですし、自分を活かすこともイメージしたい。1年生らしさは出したいですが、チームの軸となって苦しい局面を打開できるように。テーマは、平常心。(全力の)8割くらいで、楽しむ気持ちでいれば、余裕を持てていいプレーができる。(全力の)8割でやっても大丈夫なように、ベーシックスキルのレベルを上げていきたいです」

 秩父宮での大学選手権準々決勝では、デビュー戦の相手でもある慶大とぶつかる。

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