楕円の競技が、その傷ついた心を救った。ドミニシ、早すぎる別れに。
フランス協会会長のベルナール・ラポルトは、ドミを最もよく知る人物の1人だ。スタッドゥ・フランセ、フランス代表、それぞれで監督としてドミを起用し、暑い信頼を寄せた。クラブの1908年以来90年ぶりとなるスタッドゥ・フランセのフランス選手権優勝、2004年6ネーションズでのグランドスラムなど、共に偉業を成し遂げている。ラポルトによると、この夏、ドミは何かの問題を抱えており、そのことについて話し合っていたという。詳細は語られていない。心の古傷は癒えていなかったのか、新たな傷に悩まされていたのか、それとも……。
2020年11月24日、15時を過ぎた頃、ドミはあの世へと旅立った。パリ郊外、かつてフランスの代表戦のメイン会場だったパルクデプランスから6kmほどの距離に位置するサンクルー公園、その付近の廃屋の屋根に上る姿が目撃されている。約20mの高さからの墜落。この「事件」の捜査は継続しており、投身自殺か事故かは断定されていない。
多くの追悼の辞が寄せられた。かつてのチームメイト、対戦相手、NZその他の協会、芸能人、ファン。200m背泳ぎ1998年世界水泳金メダリストにして2000年シドニー五輪銀メダリストのスポーツ担当相ロクサナ・マラシネアヌ、そして元フランス代表のイマノル・アリノルドキは、追悼に際し、ドミを“アーティスト”と呼んだ。応援したくなるような小さな身体、スペクタクルな瞬時の加速、ディフェンスラインを切り裂き、ピッチを劇場に変える爽快なまでのランニングスキル。キャップ数やトライ数で上回る選手は少なくない。だが、ドミほど試合や大会のエピソードとともに語られ、忘れることのできない選手は稀だ。そう、クリストフ・ドミニシは、ラグビー界が語り継ぐべき、伝説のアーティストなのだ。 [スポーツライター・木村卓二]