慶大・三木亮弥の「詰め」は知性の発露。23日早慶戦へ。
11月23日、東京・秩父宮ラグビー場で毎年恒例となるラグビーの早慶戦がある。
両軍が加盟する関東大学対抗戦Aの公式戦としておこなわれる一戦は、激しいタックルの応酬となるか。前年度の大学選手権を制した早大が昨季から防御にフォーカスを置く一方、日本最古豪の慶大も伝統的な部是でもある防御にプライドを持っている。
「ディフェンスで勝つというマインドを共通認識で持てていることが粘りになっているのかなと思います。慶大はディフェンス。困ったらディフェンスに立ち返る」
こう語るのは副将の三木亮弥。当日はアウトサイドCTBとして出場するタックラーは、大学選手権出場を逃した昨季と今季の違いをこう述べる。
「単純に言うと、厳しくしたってことです。(部内の)ルールもそうですし、練習もそう。強度の低いトレーニングは頭をフル回転させてやるなど、姿勢の部分を打ち出している気がします」
クラブは昨季、元日本代表の栗原徹をヘッドコーチとして招いていた。今季から監督に役職名を変えた栗原は、国内トップリーグのNTTコミュニケーションズや若手主体の日本代表でも指導経験を持つ。かねて状況判断力やリーダーシップなど、無形の力を伸ばすことでスマートな組織を作ろうと考えていた。
ただ今季は、その理想を胸に抱きながらも「厳しく」の趣もにじませているようだ。その流れについて問われた三木は、クラブの歴史的な特徴への考察を踏まえて言った。
「僕が言うのも変ですけど…。慶大の学生には、少し、環境に甘んじてしまうような部分が昔からあると思っていました。それが今年は、首脳陣から厳しく取り組んでいる。すると時間が経つにつれて、自分から意欲的に(タフな練習に)取り組む選手が現れています」
身長171センチ、体重83キロと一線級にあっては小柄。しかし、強烈なタックルを持ち味とする。
特に際立つのが、「詰め」の動きだ。防御網から鋭く飛び出し、自分と遠い位置にいる好ランナーとの間合いを一気に詰める。なぎ倒す。
11月1日には、昨季全国2位の明大を向こうに自らの長所を発揮。13-12で勝利をつかんだ。
相手の急所をえぐるような「詰め」は決まれば攻守逆転のきっかけとなるし、もしかわされれば背後のスペースを大きく破られうる。
ハイリスク、ハイリターンとも取れるこの防御方法を成功させる秘訣を、三木は「準備」の一言にまとめる。
「準備に尽きるかなと。もちろんタックルの意欲、スキルも必要かもしれないですが、それよりも相手のサインプレーを知っておくとか、自分がタックルの入りやすい立ち位置にいるという準備が大事だと思います」
確かに、予め相手のパスや人の流れを予測できていれば、その都度、「詰め」を繰り出すか否か、どの角度へ「詰め」を放つかなどの判断の誤りを減らせそうだ。三木の言葉通り素早く所定の「立ち位置」についていれば、そのジャッジを落ち着いて下せそうでもある。
いざ防御網から飛び出す前には、一緒に防御網を作る味方にも声をかける。その連携も命綱になると、三木は言う。
「横の選手としゃべって、詰めていいのかのコミュニケーションを取る。相手が表と裏のある(1つの動きで2通りのパスコースがある)サインを使うのなら、自分が『裏を押さえたい。表の選手を見て欲しい』と味方に伝え、『OK』と言われたら、詰める」
明大戦後に取材に応じた三木は、「青学大(11月8日に対戦して78-0で勝利)、早大は(明大以上に)横に(球を)振ってくる」と読んでいた。今度の大一番でも、より仲間と一枚岩になりたいと考えていそうだ。
その背景に知性がにじむ、副将の一撃。非日常的な空間となりうる早慶戦の舞台で、何度、見られるだろうか。