国内 2020.11.11

早稲田実の山下一吹、堂々の優勝で「ここからがスタート」。

[ 向 風見也 ]
早稲田実の山下一吹、堂々の優勝で「ここからがスタート」。
東京都第2地区予選決勝で躍動した早稲田実業のFB山下一吹(撮影:長岡洋幸)


 早稲田実の背番号15は堂々としていた。

 自陣ゴール前で防戦一方だった試合序盤、最後尾のFBに入った2年生の山下一吹は防御網を敷く戦士たちに鋭く飛び出すよう伝達。自らは背後のスペースを埋める。

 11月8日、東京・秩父宮ラグビー場。第100回全国高校ラグビー大会の東京都第2地区予選の決勝で、全国大会出場歴41回の國學院久我山を迎えていた。

 早稲田実は結局このピンチをしのぎ、チームを率いる大谷寛ヘッドコーチ(HC)は後に「あそこをしのぎ切ったのは大きかった」。前半12分までに7-0と先制した。

 ちなみに先取点のきっかけは、自陣10メートル線付近左中間での山下のセービングだった。直後に早稲田実SHの清水翔大がボックスキックを放つと、敵陣10メートル線付近左中間で相手が落球。早稲田実がすかさずこぼれ球をさらい、この日好ラン連発のNO8、高木颯太のトライなどを導いた。

 山下が攻撃で光ったのは14-0とリードしていた後半から。まず2分には、敵陣ゴール前左でラインブレイクしたSOの守屋大誠主将をサポート。パスをもらうや目の前の防御をひらりとかわし、19-0と加点した。

 ノーサイドの直前にも、果敢なコーリングとパスダミーとフットワークの合わせ技で自身2つめのトライを記録。30-7。そのまま歓喜を味わう。反則数は3対12と順法精神でも優位に立った早稲田実は、2大会ぶり7度目の全国行きを決めた。

 今季はけがもあったという山下の働きに、指揮官は「本番に強いな」と感嘆。スタンドへ駆けつけていた山下の父で早大前監督、現日野アシスタントコーチの大悟氏は、感想を求められるや本人に取材するよう笑顔で促す。

 この日は、関東ラグビー協会が「東京高体連との申し合わせ」を理由に試合後の取材機会が制限されていた。そのため、普段はスポーツ放送局に務める大谷HCが山下とのやり取りをスマートフォンに記録。試合会場とはやや異なる場所で、そのコンテンツを再生する。

 トライの感想を求められたであろう対話のなかで、背番号15はこのように発していた。

「自分としてはキック処理を安定させたかったのですが、そこでミスが続いていたので、なんとか取り返してやろう…と」

 昨年度は2月末の学年末試験が途中で打ち切られ、そのまま自粛期間が始まった。以後、クラブは週に2回はオンラインでの自宅トレーニングを実施。春先にはスーパーラグビーのサンウルブズが実施した『サンウルブズエナジーチャレンジ』という運動習慣にも加わり、汗を流した。

 ミーティングや走り込みも怠らず、大谷HCは学生たちにこう言い聞かせてきた。

「すべては(東京都大会の)決勝戦からの逆算だから」

 昨季は全国大会への連続出場を狙うも、東京都大会の決勝で東京高に敗れた。社会情勢が変わろうとも、リベンジへの思いは貫きたかった。部分登校が始まった6月中旬、少人数でのトレーニングを再開。7月以降に全体練習を再開させ、8月に対外試合を組んだ。

 昨年度に涙をのんだ東京には、11月1日の準決勝で勝利。しかし、守屋主将は皆の前で「ここ(決勝)で勝って、初めてのリベンジになる」と発破をかけたようだ。

 かくして臨んだファイナルの舞台。守屋主将は、録音談話を通じて「一番のテーマなノーペナルティ。全体を通して規律は保たれていたかなと思います」と安堵の声を届ける。山下はこうだ。

「ここからがスタートだと思うので、(全国大会が始まるまでの)約1か月半、しっかり準備して、年越ししたいと思います」

 大谷体制下で2度目となる今度の全国大会では、2回戦突破に伴う「年越し(1月1日に3回戦実施予定)」を目指す。

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