各国代表 2020.10.28

イングランドでもエディー・ウェイ。今秋の代表選考基準は「ハーモニー」

[ 竹鼻智 ]
イングランドでもエディー・ウェイ。今秋の代表選考基準は「ハーモニー」
調整を進めるイングランド代表の練習。エディー・ジョーンズ監督が指揮を執る。同代表のジャージーは、この秋から『umbro』に。(Getty Images)

 10月25日に予定されていたバーバリアンズ戦が中止となってしまったイングランド代表。中止の理由は、対戦相手のバーバリアンズの複数の選手がコロナ規制を破って外出してしまったためだ。

 規制を破ってしまった選手の中には、元イングランド代表キャプテン、クリス・ロブショウ(FL)も含まれていた。
 バーバリアンズの文化でもあるチームメートとの「飲み」を実行した結果、外出禁止令を破ってしまった。「心の底から後悔している。本当に申し訳ない」とはロブショウの言葉だ。

 エディー・ジョーンズ監督率いるイングランド代表は気を取り直し、延期となっていた2020年シックスネーションズの最終節(10月31日)の準備に入っている。
 ラグビーがメジャースポーツとしての地位を確立するイングランドでは、代表に選手を送り出す1部リーグ(プレミアシップ)の数が12と、伝統的ティア1国の中では14のフランスに次ぎ、2番目に多い。

 そんな背景もあり、イングランドは代表候補レベルの選手層も厚い。よって、選手選考に対するファンやメディアの議論も幅広く繰り広げられる。
 メディアを前に話せること、話せないことの境界線があるのは当然も、ジョーンズ監督は、話せることについては腹のうちを話す。今秋の代表のチーム選考の基準としては、選手同士のケミストリー(Chemistry)という点を述べている。

 ケミストリーを日本語に直訳すると、化学、化学反応という言葉になるが、意図としては「選手同士の相性」ということだ。ジョーンズ監督は「選手同士の相性はグランド内外ともに選考の基準となる」とも述べている。
 過去には、チームのハーモニー(Harmony)という言葉を使い、代表選考についての質問に対応したこともある。「代表合宿で長い時間を共に過ごすのだから、その環境で周りの人と上手くやっていけないような選手は召集を難しくする」というコメントもあった。

 ジョーンズ監督のその方針が表に出ることも、これまで何度かあった。
 代表合宿中の選手同士の喧嘩、あるいは代表当落線上の選手が私生活で飲酒絡みのトラブルを起こすこともあり、結果、代表から即刻外されたこともある。
 なかでも、2018-2019シーズンのプレミアシップ最優秀選手に輝いたダニー・シプリアーニ(SO/グロスター)の代表落選時には、ジョーンズ監督の選手選考方針がハッキリと出た。

 シプリアーニは2008年に20歳でフル代表デビューを果たしながらも、これまでの代表キャップは16。既存の型にはまらないプレースタイルを得意とする。様々なパスやキックを、長く、正確につなぐ技術で観衆を沸かせる「マジック」を見せる選手だ。

 しかし代表デビュー後のキャリアの中で、飲酒運転を始めとした数々の飲酒絡みの場面でトラブルを起こし、警察のお世話にもなった。
 グラウンド上での活躍だけを見るファンは、「なぜシプリアーニを代表に呼ばないんだ」とソーシャルメディアなどで意見を述べたが、「チームのハーモニーを崩す選手は呼ばない」というのがジョーンズ監督の意図であり、答えだった。

 この秋の代表選考にはグラウンド外の問題で代表への道が閉ざされるような選手はいないが、ロックダウン明けで、負傷者が続出している。
 2020年シックスネーションズ、最終節のイタリア戦を前に発表した代表メンバーには、多くの主力選手が負傷のために招集されなかった。

 なかでも痛いのが、SOジョージ・フォードの負傷だ。
 フォードとともに出場する場合はCTBを務めるオーウェン・ファレルは、代表戦でSOを問題なくことなすことができる。しかし、この2本の大黒柱を中心に2016年以降戦ってきたチームはSOの層が明らかに薄い。

 そんな状況下で3番手SOとして名乗りを挙げたのが22歳のジェイコブ・ウマンガ。サモア代表として13キャップを持つマイクを父に持ち、叔父のタナはニュージーランド代表として74キャップを持つCTB、WTBだった。

 他にも主力が負傷したポジションはいくつかある。あの選手はどうだ。なぜあの選手を呼ばない。ソーシャルメディアでは騒がしい議論が続く。
 それらの議論を「時間の無駄」とバッサリ斬り捨てるジョーンズ監督は、この秋の代表選考を「ケミストリー」という言葉で締めくくった。

 どこでどんなチームを指導するとしても、貫き通すのはエディー・ウェイ。稀代の名将に選ばれた選手たちは、この秋、どのような戦いぶりを見せてくれるだろうか。

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