【コラム】踏み出すということ
「コロナ対策は正解がわかりませんし、どこまでやっても完璧ということはありません。ただ、やれることはすべてやろう、と」
地元自治体の宗像市と市の保健師、近隣にキャンパスを構える日赤看護大の協力を仰ぎ、会議を重ねて受け入れ体制を整備した。もっとも重視したのは、施設に入る前の段階の予防策だ。参加する選手、スタッフに加え同居する家族まで範囲を広げて、大会前の一定期間の体温と体調のチェックを徹底。会場内だけでなく、会場に来る前も合わせて二重のバリアを設けることで、感染防止策を強化した。
同じように、参加するチーム側もこの大会を成功させるためにいくつものハードルをクリアしてきた。移動方法や集団での過ごし方、食事の摂り方など、学校から出場許可をもらうために気を配らなければならない点は多岐に渡る。ルーキーズカップに出場した京都成章の湯浅泰正監督は、「宗像市やグローバルアリーナの取り組みの情報を集めてこれくらいの計画書を提出して、『これなら』とOKをもらったんです」と、右手の親指と人差し指で1センチほどの間隔を作ってみせた。
さらに、大会が終わった後も緊張は続く。コロナのやっかいなところは、感染から発症までに1日〜14日ほどの潜伏期間がある点だ。「だから今後2週間は気が抜けないんです。地元に帰って感染者が出たら、すべてのチームに影響がおよぶので」(廣瀬さん)。後日、廣瀬さんに電話で確認すると、「おかげさまで大丈夫でした(感染報告は一件もなかった)」と明るい声が返ってきた。
今回のフェスティバルには、「こういうやり方をすればこの状況でもラグビーの大会を開催できることを証明する」という、もうひとつの大切なミッションがあった。廣瀬さんとともに発起人としてこの大会に携わってきた東福岡の藤田雄一郎監督は、選手たちに「万全の感染対策をすれば大会をやれるという成功例のパイオニアになろう」と話をして、意識を高めてきたと言う。
「試合をしない、遠征に行かないというのが一番簡単。でも、やるためにはどうすればいいのかを考えていかなければ、いつまで経っても前には進めない。こうやれば安全に、安心してラグビーができるという今後のモデルになれば、と思っています」