国内 2020.10.10

黄金ルーキーの肖像。筑波大・谷山隼大が開幕戦で活躍も悩む理由とは?

[ 向 風見也 ]
黄金ルーキーの肖像。筑波大・谷山隼大が開幕戦で活躍も悩む理由とは?
筑波大1年の谷山隼大。関東大学対抗戦Aの開幕戦でデビューし活躍(撮影:松本かおり)


 驚いたのは当の本人だった。

 筑波大ラグビー部1年の谷山隼大は10月4日、東京・秩父宮ラグビー場での関東大学ラグビー対抗戦Aの初戦に先発。身長184センチ、体重92キロと恵まれたサイズのアウトサイドCTBが、いきなり公式戦デビューを飾る。

 スタンドをうならせたのは後半2分だ。

 敵陣10メートルエリア左のラインアウトからの攻めで、インサイドCTBで主将の岡崎航大から球をもらうや、目の前のタックラーを蹴散らす。

 まもなく別な防御に進路を阻まれるも、スピードに乗ったままクラッシュ。FBの植村陽彦が後ろから駆け込むのを感じ、進路へ右手一本でのバックフリップパスを放つ。

 トライを演出する。

 タックルされながらボールをつなぐオフロードパス。もともと得意なようにも映るが、本人はこの調子だった。

「自分でもびっくりしました。オフロードは高校の時に練習した時がありましたけど、それ以来あまりオフロードはしていなかった。なのに、急に試合でできたので…」

 30-19で勝利。大きな背中の13番も、80分間を通して存在感を示す。

 続く11分頃には自陣ゴール前で突破した相手を後ろから追いかけ、捕まえ、手元の球に絡む。同27分頃には、味方が自陣10メートル線付近左中間から敵陣中盤左中間へ放った高い弾道のキックをジャンプ一番、確保する。相手の捕球役とボールの落下位置との間に、手のひらを差し込んだ。

 防御に関しては「何回もタックルミスをした。相手の芯を捉えられるようになるかが、いまの課題です」とするが、ハイボールキャッチについては「得意なプレー」。高校1年まではセットプレーに参加するFWが主戦場だっただけに、「キックオフのボールを獲りに行っているうちに上手になりました」とのことだ。

 中学時代は陸上競技の走り幅跳びをしていて「試合には出たことないんですが、走り高跳びも」。遠心力を使い、空の上で弧を描くイメージで飛ぶのがよいと実感してきた。

「あとは手を使う。飛ぶときグッと(垂直に片腕を上げる)」

 小学1年で玄海ジュニアラグビークラブへ入った。福大OBの父・信隆さんの影響だ。

 進学校である福岡高時代で競技を続ける経歴は、日本代表としてワールドカップに2度出場した福岡堅樹と同じ。いとこの谷山俊平が福岡と高校の同期だったため、谷山自身も福岡と交流があった。

 筑波大の体育専門学群へは、センター試験と実技や論述の伴う2次試験をパスして入学。強豪校が活用するスポーツ推薦制度を用いずに、大学トップレベルの門を叩いた。ちなみに早大入試へも、トップアスリート推薦のための書類選考に加え、センター試験利用の受験制度で挑んでいた。
 
 新生活を襲ったのは、新型コロナウイルスの感染拡大だった。日本列島が本格的に危機感を感じたのは年度が変わる前後とあり、筑波大の入学式はなくなり授業もすべてオンラインでおこなわれた。

 谷山は夏まで実家で待機し、キャンパスライフを送るつくば市へは「7月まで行っていなかった」。しかし、置かれた状況を楽しめたという。

「家の近所にラグビーをやっている中学生、小学生の子がいて、その子たちとトレーニングしたり、遊んだり。…(昨秋の)高校最後の試合の時は83、4キロ。(当時入りたかった)高校日本代表に入るには増量しなきゃいけないということで、体重を増やすことにフォーカスしていました(10キロ近く増量し、選出)。それで、コロナの期間も、食べていました。あとは体力が落ちちゃいけないので、(先述の)小さい子たちと走っていました。自分の家から海まで3~4キロあるんですが、海まで走って行って、ちょっと海に入って帰るみたいな感じです。意外と充実していました。(チームへの合流後は)体重が増えたので走れないのかなと思ったのですが、意外とついていくことができた。体力的にあまり落ちていなかったのはよかったです」

 1年時から試合に出るのを目標に掲げた。チーム合流から約3か月後の達成には「最初から叶うとは思っていなかった」と驚いたもの。開幕前の心境もこう明かしていた。

「自分がつくばに来たのは7月の最初のほうで、チームで練習する時間もあまりなかった。準備不足なんじゃないかという不安はありました。だけど、最後のほう(9月頃)の練習でチームにマッチしていけるような気がして、ちょっと自信があった…くらいの感じで試合に臨みました」

 無事に初陣を迎えた背景には、上級生の存在がある。岡崎主将、WTBの仁熊秀斗という実力者の4年生とともに動くなか、谷山は多くを学ぶ。視線で防御を抑制したり、相手と正対してスペースにパスを投げたり。無形の力を身体にしみこませる。

「先輩たちは『ここのスペースへ攻める』というアタックの目的が明確で、それを瞬時に判断してプレーしている。自分はそれをなぁなぁでやっていたので、見直さないとな…と。試合に出られていない先輩たちも自分より全然、うまい。いろんなところを盗んでいこうと思っています」

 全国大会と無縁も、高校日本代表に激しさが必須のFLで選ばれた逸材。「大学で(ポジションを)どっちにしようかと迷ったんですけど、やっぱりボールをいっぱい触りたいなと思ってBKに」と笑う。

「対面に誰がきても身体を張って、チームに貢献できるようしたい。アタックでもディフェンスでも前に出てプレーすることが、勝つには必要。与えられた役割を果たしていけるように頑張りたいです」

 11日、帝京大と都内の敵地でぶつかる。

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