国内 2020.10.10

ラグビー選手は勉強に向いている。日本代表経験者・村田毅の仮説。

[ 向 風見也 ]
ラグビー選手は勉強に向いている。日本代表経験者・村田毅の仮説。
日本代表として7キャップを持つ日野レッドドルフィンズの村田毅(撮影:松本かおり)


 2015年のラグビーワールドカップ・イングランド大会時の日本代表でバックアップメンバーとなっていた村田毅は、今年までに順天堂大学大学院・医科研究科で医学修士を取得。アスリートの睡眠について研究してきた。

 自身の競技生活を見返したことで、この分野に興味を持ったという。専用のデバイスで睡眠の質を客観視し、よりよい眠りを競技力の安定につなげたい。

「自分自身の経験から、睡眠の大切さを痛感したんです。全然、寝られなかった時があって、それが寝られるようになってパフォーマンスが上がって、そうしたら日本代表にも招集されて…ということがあった。(一般的に)自分がどれくらい寝られたかは主観で評価されていますが、それを客観的に管理できたらけがを未然に防げたり、ストレス状況を把握できたりしないかと研究しました」

 慶應志木高、慶大、NECを経て、2017年に日野自動車だった現所属先へ移籍。2020年までは2シーズン主将を張った。大学院に入ったのは日野でのプロ生活が2季目に入った頃だった。引退後の活動を考慮したのではなく、自身の視野を広げるためだった。

 新型コロナウイルス拡大に伴う自粛期間中は、合計数百名の大学生にオンラインセミナーを実施。インプットをアウトプットに変える機会も増やすなか、立てているのは「ラグビー選手は勉強に向いている」という仮説だった。

「ラグビー以外のスポーツ選手のことはそれほど知らないですが、(少なくとも)ラグビー選手に関しては学ぶことへのハードルを上げて自分を過小評価している」

 村田は現在、英語や英会話の習得にも時間を割く。その過程では効率的な外国語学習の方法が体系化されていて、「第二言語習得理論」と呼ばれているのを知った。新たに知った理論に沿って学ぶうち、あることに気づいたのだ。

「漠然と勉強するより『リスニングはこう分類でき、その力を習得するのにこの学習能力がある』と…。『これって、ラグビーに似てるじゃん』って思ったんです」

 2015年ワールドカップの直前には、日本代表候補合宿で1日複数回のタフな練習に参加。日野でも下部リーグから国内トップリーグへの昇格を果たした。かような経験を通し、現代のラグビー選手が複層的なトレーニングで成立していること、トッププレーヤーほど正しい努力を繰り返しできることを実感している。

 だからこそ、ラグビー選手には勉強し続ける素養があると感じるのだ。

「ラグビーも細分化されていて、フィットネス、ウェイトトレーニング、パス、キック、タックルと(トレーニング方法が)細分化されているなか、トータルとしてのラグビー選手ができ上がる。それと同じように、勉強にもいろんな方法がある。ラグビー選手って、目標に向かっての努力を惜しまない。特に社会人まで続ける選手は一定の荒波を越えてそこに立っている。それくらい厳しいことを乗り越えられる人たちなら、勉強にエナジーを注いでもやり切れるんじゃないかと思います」
 
 もし勉強に苦手意識のあるラグビー選手がいるとすれば、それはその選手が子どもの頃から勉強でいい思いをしていないからに過ぎないのではないか。

 そんな問いかけに「そこ(苦手意識)が首を絞めちゃっている。もったいないです。その(学生だった)時、たまたま(勉強に)興味がなかっただけなんですよ」とうなずき、こうも続けるのだ。

「もとから頭のいい人なんて、いないので。きっと高学歴の人には、シンプルな頭のよさよりも『勉強をしたら知らないことがわかる』という成功体験があるんです。ラグビー選手にも、ベンチプレスをずっとやっていたら(重いウェイトも)上がるようになるという成功体験がある。僕にはそれ(両者)が同じように見えて」

 身長186センチ、体重103キロの機動力あるFWとして活躍しながら、コンテンツ配信サイトの『note』で書評を続けるなどグラウンド外でも幅広く発信する。

「自分に興味があることを学ぶと、それを結果的に個性にできて、人と色の違う自分を作りあげる」

 ラグビーも勉強も、人を強くするのに向いている。

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