国内 2020.10.08

170センチの一撃必殺。青学大・中谷玲於のタックルを見よ。

[ 向 風見也 ]
170センチの一撃必殺。青学大・中谷玲於のタックルを見よ。
青山学院大のハードワーカーである中谷玲於。U18日本代表経験者(撮影:松本かおり)


 イメージ通りに持ち味を発揮した。

 10月4日、東京・秩父宮ラグビー場。関東大学対抗戦Aの初戦である。昨季は下部との入替戦に進んだ青学大の中谷玲於が、学生王者の早大に牙をむいた。

 まずは前半13分頃、自陣10メートル線付近右の相手ボールラインアウトへの防御シーンである。

 球が展開されるや、防御ラインに入っていた中谷が一気にせり上がってパスの受け手となりそうな選手をロックオン。当該の選手がパスを受けたところへ、味方SOの桑田宗一郎と一緒に読み通りに刺さる。接点の周りで反則を誘った。

「分析で早大さんのビデオを観る感じでは、ラインアウトからは縦攻撃が多かった。(攻防の境界線へ)縦に入る選手がボールキャリーだな(パスをもらう)と思って。ぼんやり(としたイメージ)ですけど」
 
 黒字に黄色の背番号7がついた青学大の3年生FL。身長170センチ、体重80キロとやや小柄も、読みと反応、何より瞬間的な加速力を相手にぶつける。

「身体が小さい分、パワーでは(重さのある選手には)負けてしまう。(タックルに入る)間合いになったらスピードを上げることを意識しています」

 分析が奏功した序盤戦の1本に続き、後半14分には突発的なピンチも未然に防ぐ。自陣中盤右の自軍ラインアウトを早大に奪われた直後、持ち場から同10メートル線上までまっすぐ駆け上がって激しく打ち込む。またもその周辺で早大に反則をさせ、スタンドから拍手とかすかな歓声を招いた。

 ノーサイド。昨季は0-92、一昨季は0-123と大差をつけられた早大に21-47と応戦。後半18分には21-26とわずか5点差に迫るなど、各地で開催の開幕節にあって有数のインパクトを残した。

 今季は対抗戦勢から5チームが出られそうな大学選手権への出場へ向け、自信をつかんだ。11日には昨季選手権準Vの明大に敵地で挑む。英気を養う。

「目標の大学選手権出場に向け、ディフェンスで前に出て勢いづけるよう頑張ります。チームとしては、一戦、一戦、成長できる対抗戦にしたいです」

 京都府出身。小学4年でラグビーを始めた。アウル洛南ジュニアラグビーフットボールクラブでは厳しい指導に音を上げそうになったが、参加した試合でタックルを決めて快感を覚えた。

 競技開始当初こそ球をさばくSHだったが、概ね身体をぶつけあうFWのいずれかのポジションでプレー。「タックルをすれば、味方、監督に褒められた」という原体験を、いまの「ディフェンスで貢献」との思いへつなげている。

 洛南中を経て京都成章高入り後は、「(タックルに入る)間合いになったらスピードを上げる」。思いを具現化するための身体動作を学ぶ。

 3年生となった2017年4月には、「2017ラグビーヨーロッパ男子U18ヨーロピアンチャンピオンシップ」に他の世代トップ級とともに出場。全3試合で慶應高から慶大へ進む山本凱とFLを組み、欧州の大男に突き刺さった。

「僕自身、本当に選ばれると思っていなくて。その前のカテゴリーの近畿代表にも選ばれていなかったので、『身長が小さいと、上のカテゴリーで通用しないのかな』と。ただ、ヨーロッパチャンピオンシップで世界の選手とコンタクトをしたら、ディフェンスは通用する部分はあった。確かに日本人選手よりも海外選手の方が身体も大きくスピードも速いんですけど、『間合いになったらスピードを上げる』というディフェンスをすれば相手も止まりましたし、そこは海外でも通用する」

 入学前にも入替戦に出ていた青学大へ進んだのは、チャレンジャーとしての生きざまを示したいからだった。

 1年時からレギュラーとなるなか、年度を重ねるごとに「学生の主体性」が増したと実感する。特に昨季は、今季主将となった西野稜祐が3年のうちから試合に向けたミーティングを頻繁に開いた。

「やはり、ミーティングって大事じゃないですか。相手の強み、弱みを分析したり」

 その西野が先頭に立ついまは、以前やや疎かになっていた提出物の期限の厳守や今季から始めた日々の検温にも全部員が意識を注ぐ。

 他の強豪校と異なり全寮制ではないだけに、自発的に一体感を作れるかがチームの出来を左右するのだろう。いまの課題を語る言葉に、実感がこもっていた。

「1人暮らしの人も多いので、より主体性が問われていると感じますね。(西野を)見習わなければいけないと感じますし、プレー中や練習中に声を出すのは4年生(が多い)というのが現状であって。下級生からも意見を出すことで、より一層チームが強くなるかなと」

 2020年春に抱いた決意については、こう述べる。

「普段であれば春季大会があって、連戦が続き、そこでの課題を菅平で修正、調整して続く流れだったです。今年はその春季大会も、合宿もなくなった。焦りはありましたが、自宅で何もしないのではなく、走り込み、体重管理、自重トレーニングをしたことで、練習再開時はブランクを感じずに入れたかなと」

 早大戦。相手のメンバー表には、18才以下日本代表で一緒だったFBの河瀬諒介、CTBの長田智希らの名前がなかった。前年度からの主力の一部は登録外とされているのを受け、中谷いわく「青学大としては、勝負できるぞ(という実感になった)」。今年のうちに前年度の上位校を倒し、来季は優勝経験チームの主力にも強烈な一撃をお見舞いしたい。

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