その他 2020.10.02

ラグビー稲垣啓太がバレーボール清水邦広と対談。ユーモアに知性にじむ。

[ 向 風見也 ]
ラグビー稲垣啓太がバレーボール清水邦広と対談。ユーモアに知性にじむ。
オンラインで対談したラグビーの稲垣啓太選手(左)とバレーボールの清水邦広選手


 ラグビー日本代表の稲垣啓太が10月1日、バレーボール日本代表の清水邦広とオンラインで対談。決意を新たにしながら、ユーモアたっぷりのエピソードトークも披露した。

 身長186センチ、体重118キロの30歳で、運動量と突進力に定評のある左PRとして昨秋のワールドカップ日本大会では8強入り。表情を変えないことから「笑わない男」と呼ばれ、一世を風靡した。

「あのですね、極論すると、事故なんですよ。ことの始まりはですね…。写真とかがあまり得意ではなくて、ちょっと身構えちゃう…と、いうことをしていたら、そこがクローズアップされていって、まぁ、この異名がついたと」

 こう語ったのは、清水が「素朴な疑問ですが」と前置きしつつ、「なんで笑わないのかな。疲れないのかな。本心で、笑っていないのかなって」と水を向けたからだ。当の本人はかすかに微笑みを交え、丹念に背景を解説した。

「日常生活でそこまでゲラゲラ笑うかと言われると、なかなかないですね。試合中や練習中は特に(笑顔は)ないですね。本当、後輩からしたらとっつきづらいでしょうね」

 今回は、パナソニックが持つクラブでプレーする選手同士のクロストーク。稲垣は「僕、バレーボール、好きなんです」と、幼少期のバレーボールの体験も語る。

「両親がやっていまして、小さい頃は地元のクラブチームに連れて行ってもらって、やっていたんですよ。その時は両親のスパイクが顔面を捉えて、ぶち切れるということが起こったんですけど、その後、手加減されてぶち切れるという」

 体験したハプニングを具体的に描写するさまは、試合後の取材機会に詳細なプレー解説をおこなう姿とも重なるような。

 話題が休日の過ごし方に及ぶと、適度に間合いを空けながら笑いを誘う。さらにアスリートとしての食生活、少年期のレジャー体験へ話が展開しても、かすかな悲劇を俯瞰し、具体的に述べる。淡々としたトーンが、おもしろみの源泉となった。

「ひとりの時間が結構、好きで。僕は朝が早いんです。休みの日も6、7時には起床するんですけど、ぱーっと身支度して、知り合いのカフェにおじゃまして、コーヒーを飲みながらひとりでボーっとしている。本当、変な人、みたいに思われているでしょうね。だって、こんなのが、ひとりで、コーヒーですよ。いまはコロナの影響でそれも難しいので、家でコーヒーを作るようにしています。エスプレッソマシンを家で買って、それをおもちゃのようにいじくってやっているんですが、結構おもしろいですよ。清水さんも、いつか飲みに来てください」

「夏場の試合って、1試合で3~4キロはざらに落ちるんです。ほとんどは水分なんですけど、焦りますよね。1試合で4キロ…。その時は寒気がしてカタカタ震えてるんです。脱水みたいな感じです。試合後のサプリメント、すぐに口に入れるものにも、気を遣いますね」

「お菓子、食べないですね。大学生の時に急性胃腸炎みたいになって、そこから甘いものを口にすると気分が悪くなるようになっちゃったんです。アスリートとしてはよかったのかなと思うんですが、甘いものを食べて息抜きをする選手をよく見るので、何か、息抜きの仕方を忘れちゃったなと」

「(遊園地は)人生で1回しか行ったことがない。中学生だったので学ランを着て。当時、頭を剃っていました。開園と同時にディズニーランドへ駆け込み、幼稚園児を全力で抜き去ってファストパスをゲットしました」

「(絶叫マシンは)僕が得意か、得意じゃないかというより、隣に座る人がかわいそうだなと思うんですよね。安全シートベルトみたいなのが、ガチャンと降りてくる。(そのベルトが)1人専用ならいいんですけど、3人一緒で…みたいなのだと、僕の身体のところで(安全ベルトが)ストップされる。僕、中学1年からいまと体型がほぼ変わっていないので。…隣に座った小さい生徒さんにとっては、ゆーるゆるなんですよ。このまま発進したら(隣の学生は)ぶっ飛んでしまうんではないかと。だから僕は、できるだけぎゅうぎゅうにそのシートベルトみたいな安全装置を(自分の身体へ)押し込むんです。…足がうっ血しそうになったっす」

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、今年1月からの国内トップリーグは2月下旬の第6節を最後に不成立となった。

 長らく続いた自粛期間について「ケアをしながらトレーニングができた。いい時間だった」と稲垣。「ワールドカップ後は身体のけがを抱えながら…だった」とあり、リフレッシュできたことを前向きに捉えたようだ。

 感染症流行の余波を受け、今年は日本代表活動も全て見合わせとなった。2023年のワールドカップフランス大会に向け、稲垣が脳裏に描くのは昨秋の成功体験ではなく昨秋の悔しい思い出だ。

 攻防の起点となるスクラムを最前列で押す役目を担うとあり、「昨年、ワールドカップ日本大会ではスクラムという部分で世界と戦うことができたとは思うんです。でも、(スクラムで)世界との差は感じます」。優勝した南アフリカ代表に敗れた準々決勝を想起し、こう続けるのだった。

「南アフリカ代表にはスクラムが原因で負けたと思っている。責任も感じますし、悔しさが消えることはないですね。もっといろんなものを模索し、相手を倒せるようになるまで、やり続けないといけないですね。終わりはないですよね。極論を言ってしまえば。どんどん突き詰めていけるわけであって」

 それまでしていた話をさらに展開させるような質問を清水に投げかけるなど、聞き手としてもクレバーだった稲垣。「ラグビーは15人でやるスポーツですが、結局は、個人の集合体。個人、個人が成長しないと15人が集まった時にも(チームとしての)大きさは現れない」と持論を語り、限界を作らずに燃え尽きたいと宣言した。

「なんなら、ラグビーの選手は皆ライバルだと思っていますし、切磋琢磨しながら頑張れているというのが、自分の原動力のひとつかなと思います。(引退の時期は)決めてないですね。やるだけやって、散る。自分が選んだ道でラグビーというスポーツを職業にした以上、できるところまでやらなきゃ、もったいなくないですか?」

 この国の楕円球界きってのストイックな知性派が、その魅力を再提示した。

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