国内 2020.09.11

「選手も普通の人間」。33歳の日本代表経験者・浅原拓真が2020年の日野で思ったこと。

[ 向 風見也 ]
「選手も普通の人間」。33歳の日本代表経験者・浅原拓真が2020年の日野で思ったこと。
2020年1月12日のNTTコム戦で日野デビューした浅原拓真(撮影:松本かおり)


 浅原拓真はこの夏、旅立ちを見届けた。フランス・トップ14のクレルモンへ入る松島幸太朗の渡仏を、空港で見送った。

「立ち会えてよかったです。(かけた言葉は)がんばれとか、日本食送ってやるとか、そういう話です」
 
 5つ年の離れた2人は仲が良かった。昨秋、ラグビー日本代表としてワールドカップ日本大会で5トライを挙げた松島は、年長者の浅原に「もし俺が天狗になっていたら教えて」と申し出たことがある。浅原は後輩に「もし天狗になっていたら引っぱたいてやる」と返答したという。

「彼の新しいスタート。そういう場に僕も立ち会いたいと思った。それに、フランスって遠いじゃないですか。友だちとして励ましたい気持ちもありました」

 松島がWTBやFBとしてトライを期待されてきたのに対し、浅原は右PRとしてスクラムの最前列に立ってきた。身長179センチ、体重113キロと国際舞台にあっては大柄ではないものの、ワールドカップ日本大会の開催年まで日本代表のメンバー争いに絡んでいた。通算12キャップ(代表戦出場数)を持つ。

 甲府市ラグビースクールで楕円球と出会い、甲府工高、法大を経て2010年からは国内トップリーグで過去優勝5回の東芝へ入社。2019年からは同リーグに昇格2年目だった日野に移り、プロ選手となった。

 新天地は他クラブからの移籍組が多い。元NECの村田毅は睡眠について学んでいて、ヤマハ出身の堀江恭佑は肉体強化に関する知識が豊富。雑誌やスポーツ紙に掲載するイラストが話題の浅原は、同僚の姿に刺激を受ける。

「他のプロ選手って、それぞれ自分の得意なことがあって、それを日々研究している」

 新チームで挑む最初のシーズンは、2020年1月に始まる。しかし、度重なる延期と中止の末に6節で不成立。最終的な打ち止めは新型コロナウイルスの感染拡大防止のためとされたが、3月上旬から同月いっぱいの試合の中止には「コンプライアンス教育の徹底」が理由に挙げられた。チームは活動自粛を決め、選手のSNS利用も4月末まで制限。本格的な練習の再開は、7月上旬まで待つこととなった。

 2020年の1勝5敗という歩みに「色が出せればいいアタックができる」と手応えを掴みかけていた浅原だったが、クラブハウスへの出入りもできなかった時期は「各々、苦しかったと思います」。プロ選手同士でオンラインミーティングを開き、事前にできることは他になかったのかを話し合うこともあった。

 再認識したのは、他者へ想像力を働かせることの大切さだ。日本ラグビー選手会が選手のメンタルケアに関して新たな取り組みを打ち出していることにも触れ、こう続けた。

「ラグビー選手はきつい練習を乗り越えているかもしれないけど、普通の人間であるわけで。どんなストレスを抱えているか、何がトリガー(引き金)になって病むかは、その人になってみないとわからない。僕はラッキーなことにポジティブなんですけど、そう育っていない人間もいる。だから、そこは、センシティブにやる(考える)べきなのかなと」

 9月になった。松島が参戦するトップ14が開幕。浅原も2021年1月のトップリーグ開幕を信じ、感染対策を施しながら徐々に練習強度を高めている。

「僕らはもう、とにかく強いチームが作りたくて。そのために今回の事件も乗り越えて、本当の意味でワンチームになる。選手、スタッフも全員、同じベクトルを向けていけば絶対に強くなる。まず、そこです」

 さらに強調するのは、日々の充実ぶりだ。

「これだけ身体と向き合ったのは久しぶり」

 前年度まではサンウルブズの一員として国際リーグのスーパーラグビーに挑んだこともあり、年中、試合と遠征に追われてきた。この夏ほど筋力と体力の向上に時間をかけられるのは久々で、自分の未来にはますます期待したくなる。

 前所属先の東芝では41歳まで現役だった大野均と、現所属先では42歳でプレーを続ける久富雄一と同じ練習場で走り、ぶつかってきた。だから9月7日に33歳となった自分自身も、終着駅を決めずにひたすら走り続けたい。

「いけるところまで、いきたいですね。大野均さんも(近くで)見ているし、うちには久富さんもいる。上には上がいる。久富さんって、この時期(開幕前の鍛錬期)も僕らと一緒にきついことをやる。そう考えたら、まだまだ(自分は)若い。まだまだ頑張れる」

 思えば好きなラグビーをし続けるなかで、多方面に視野を広げてこられた。

「ただただラグビーをやって、ただただスクラムを組んでいるだけではだめなんだな、って思いますよね。でも、ただただスクラムを組めるようになりたいです。早く」

 ラグビーを愛する者たちは、きょうも地球のあちこちで呼吸をしている。

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