すべての運動する人へ。 今、コロナ以外の「2つの敵」から身を守るために。
新型コロナウイルスの感染拡大に対し、徐々にではあるが、感染対策を講じながら、スポーツ界も経済の復興とともに再び立ち上がるときを迎えている。プロ野球、Jリーグなどのプロスポーツが開幕・再開し、アマチュアスポーツ、そして部活動やスポーツ愛好家も徐々に日常の運動生活を取り戻そうと動き出している。しかし、スポーツを始めた人、これから始めようとする人にぜひ知ってもらいたいのが、「敵は新型コロナだけではない」ということだ。「自粛期間明け」「梅雨明け」に潜む、2つの見えざる敵に備えるための方法を紹介しよう。
2つの見えざる敵
それは「ケガ」と「暑さ」
目に見えず、罹患してもすぐには症状が現れず、また人によっては症状すら出ない。そして、まだワクチンも特効薬もない。そんな恐ろしい敵“新型コロナウイルス”を前に、人々は長きにわたり自宅にこもる生活を余儀なくされた。運動したくてもできない、とモヤモヤを抱えていた人は多いのではないか。
緊急事態宣言が解かれ、延期されていた各種プロスポーツも開幕。学生の部活動やクラブ活動も始まり、ランニングやジムトレーニングなどを日常にしていた人も、新たな生活様式の中で、3密回避や検温、アルコール消毒など、見えない敵への対抗措置を講じながら、徐々にスポーツのある日常を取り戻しつつある。
しかし、新型コロナウイルスの他にも、すべてのアスリート、スポーツ愛好家の前に立ちはだかる厄介な“見えない敵”がいることを忘れてはならない。それは、「ケガ」である。
弊社発行『コーチング・クリニック』(スポーツ医科学を専門とした指導者・トレーナー向けの月刊誌)では、スポーツ医科学の専門家たちが次のように話している。
「運動再開時に注意したい代表的な外傷として、①膝前十字靭帯損傷、②腱損傷、③肉離れ、が挙げられる」「8〜12週間のトレーニング中断によってアスリートのフィットネスレベル(筋力・筋持久力・柔軟性)が低下し、それゆえトレーニング再開時のケガのリスクは通常期よりも高まる」
また、このコロナ禍では、ドイツのプロサッカーリーグ・ブンデスリーガにおいて長期の中断期間を経て、過密日程でリーグが再開されたことにより、負傷者が中断以前に比べて3倍も増えたとの研究結果も出ている。
長く続いた自粛生活で、ただでさえ運動量が減り、多くの人が無自覚ながら筋力や柔軟性が衰えている。その上で、食事と運動のバランスが崩れて体重が増えたなんてことになれば、スポーツ再開時の下半身への過度な負担は自明の理。どんなスポーツであっても自粛前と同じ強度の運動を行えば、ひざを中心とした下半身のケガのリスクが高まることは想像に難くない。
加えて厄介なのが、この季節だということ。梅雨明けから夏本番に向かう、気温がぐんぐん上昇する時期と重なってしまったことで、ケガ以外にももう一つ、目に見えない敵――「暑さ」との戦いも意識しなければならないのだ。
公益財団法人日本スポーツ協会HPが5月25日に更新した「スポーツ活動再開時の新型コロナウイルス感染症対策と熱中症予防について」と題したお知らせでも、スポーツ活動の再開時に配慮する3項目の一番初めに「体力低下と暑熱順化に配慮する」とある。
『コーチング・クリニック』でも、「暑熱環境下での運動は、過度な体温上昇による身体機能の低下や脱水が生じ、それらが運動能力や判断力などの認知機能の低下を引き起こし、熱中症に陥る恐れもある」と警鐘を鳴らしている(参考:2020年6月号)。 目に見えない新型コロナ感染症対策を慎重に講じても、「ケガ」や「熱中症」への対策を忘れてしまえば、またスポーツ自粛を余儀なくされる状況になりかねない。