ワールドカップ 2020.07.02

ラグマガ推薦!もう一度見たいW杯名勝負<後編>「勝負の時間に見せた『信』。2007年&2015年」

2019年ラグビーワールドカップ日本大会。ホームチーム、赤白フープ柄の日本の躍進は、大会全体の盛り上がりを牽引した。それまでラグビーに関心のなかった人々までを引きつけた。コロナ禍で試合を見る機会が失われてしまったが、今こそ、これまでの日本代表が刻んできた歴史に目を向けたい。現在、ラグビーワールドカップの過去9大会の名勝負を放送しているWOWOWとのコラボで、ラグマガ編集部が多くのラグビーファンに「もう一度見てほしい試合」を振り返る。後編は、観客を沸かせた二つの「結末」。「2007年カナダ戦」「2015年南アフリカ戦」を紹介したい。

[ 成見宏樹 ]
ラグマガ推薦!もう一度見たいW杯名勝負<後編>「勝負の時間に見せた『信』。2007年&2015年」
ゴールを決めた大西を祝福するジャパンの面々。ワールドカップの連敗を13で止めた(撮影:高見博樹)

5-12からの同点劇。
RWC2007集大成のカナダ戦

 5-12でカナダを追う日本が、後半43分のトライで10-12に。右タッチから5メートルの難しいゴールキックを大西将太郎が決めて12-12に。ハーフウェイラインに並ぶジャパンの面々とともに、スタンドの観客も両手が上がった。

 2007年9月25日、ブリテン島からフランスのボルドーに移動した日本代表が迎えた大会ラストマッチだった。オーストラリア、フィジー、ウェールズ に敗れた日本はすでにプール敗退が決定済み。傍目には、同じく1勝も挙げられていないカナダとの消化試合だった。が、この試合は日本の、後半ラスト20分の粘りと信念を見せるドラマになった。

 チームスタッツが試合を象徴している。

 試合を通じて、カナダが記録したラインブレークはゼロだった。FW勝負に絞り、自陣からも密集を押す場面もあった。繰り返すクラッシュとモール。対する日本の数字は120。これはタックルの数だ。頑丈なパックをぶつけにくる相手に、ひたすらディフェンスで抵抗した。

 日本は前の試合からの間隔が4日しかなく、カナダは8日あった。最終戦の疲労感は拭えず全体にミスが多く、現地メディアでは、内容は凡戦、欧州なら2部クラブ同士のレベルと酷評された。後半始まって間もなく、3万4000の観客がウェーブに興じている。人々がピッチに目を凝らすようになるのは、勝負の時間帯、後半20分からだった。

 カナダは意外性で引きつけた。

 5-5のハーフタイムから、ますますFWを押し立て圧力を増すカナダは、64分に驚きのスコアで勝利をたぐる。

 日本ゴール前に張り付き、セットプレーからFWラッシュを繰り返したかと思うと、密集で得たPKから一発で決めたフィニッシュブローは、なんと、キックパス。右中間、トライラインまで10メートルの位置でチョンとその場でボールを蹴ったSHモーガン・ウィリアムズは、左奥の無人のスペースにキックを上げ、WTBファンデルメルヴァがこれを直接キャッチして左中間にダイブした。

 余談だが、真横にカバーにくるタックラーを振り切ってインゴールに滑り込むカナダのトライの瞬間は、2015年の日本、南アフリカ戦のカーン・ヘスケスの逆転サヨナラ・トライとよく似ている。余談の余談だが、2007年カナダのスコアラー、ファンデルメルヴァは2019年大会にもカナダ代表として出場したスターだ。

 カナダのトライ&ゴールが決まって、5-12。ここから日本は魂を見せる。それまでのジャパンだったら、たとえ心折れずとも足が止まる時間帯だ。しかし、このジャパンは最後に良さが出た。自分たちのチームを信じ切り、前に出続けた。プール最終戦、しかも打撃戦の終盤で体力的にはへろへろだ。選手たちは体と頭が半ばしびれたような状態に。ただ、走る、ただ、タックルする。その姿が壮絶だ。ミスは減らない。だが、日本がカナダのトライラインに迫る時間帯になった。

 日本がラインアタックから、カナダのディフェンスをいなしてインゴールにキックを上げる。有賀剛とクリスチャン・ロアマヌが押さえに走ったボールを、ブロックするように追ったのがまたもカナダ主将のSHウィリアムズ。デッドボールラインまで全力でボールをプロテクトしにいった結果、インゴールの広告看板が凹むほどに激突した。ビデオもチェックしたレフリーの判断は、ウィリアムズの反則。ボールを故意に外へはたき出したと見た。

 この、気迫の代償となったペナルティが、日本の最後のトライの起点になった。

 ジャパンは珍しくPKからタップキックでSH金喆元がリスタート。右ゴール前、パスアウトされた丸刈りのLOルーク・トンプソン(まだNZ国籍)が激しく前進、左へ、左へ、ゴールポストに向かってアタックを繰り返した。ボール確保を第一にした密集での前進。カナダは、中継画面左方向への展開への警戒を緩めないまま応戦していた。

最後のトライのきっかけは、2019日本代表でもあるルーク・トンプソン(当時はNZ国籍/撮影:高見博樹)

「左、左」の流れから、一瞬でアタック方向を切り替えたのは、FLハレ・マキリとCTB平浩二だった。複数の選手が突然、右へ回り込み、ボールは大きく開いたスペースに展開され、平が飛び込んだ。すでにインジュアリータイムに入り、残されたプレーは日本のGKのみだ。観客は歓声を上げ、次に固唾を飲んで見守った。

 10-12。位置はタッチから5メートルの難しい角度。しかも右からのキックで、回転を考えるとより難しい。キッカーの大西将太郎の表情は、疲れとプレッシャーで鋭い目ばかりが光っているようだった。だが、メンタルは水を打ったように落ち着いていた。

「外すと思わなかったから、蹴った瞬間、みんなの方を振り向いた」(大西)

 W杯初出場ながら、BKの核に成長していた大西のキックは、ポストの間を抜け夜空に吸い込まれた。

12-12。日本が、1991年大会の最終戦勝利を最後に重ねてきた連敗記録は13で止まった。

インジュアリータイムのトライから、大西将太郎(現WOWOW解説者)の同点Gが決まる(撮影:高見博樹)

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