コロナ打撃からの復興案「ミニW杯」、英の元幹部が来夏開催提案するもワールドラグビー却下。
新型コロナウイルスの世界的大流行により大きな損害を受けている各国・地域ラグビー協会の救済を目的に、イングランドラグビー協会(RFU)の元トップがW杯縮小版のような大会を来夏に開催することを提案して注目を集めたが、国際統括団体のワールドラグビーは即却下した。
これはRFUの元CEOであるフランシス・バロン氏が提案したもので、2015年のW杯イングランド大会の会場や日程をテンプレートに、2021年夏(6月・7月)に世界のトップ16カ国を招待し英国とアイルランドで計31試合の大会を6週間にわたって開催しようという案だった。収益は直接各協会に分配する想定で、バロン氏は、“コロナウイルスカップ”という仮称がついたこの大会で2億5000万ポンド(約330億円)近くの収益が見込めると語っていた。
この提案に対し、ワールドラグビーは5月27日に声明を発表。賛成はしなかった。
「我々ワールドラグビーは、RFUの元CEOフランシス・バロン氏より、新型コロナウイルスによる経済的打撃の緩和策の一つとして、2021年夏に英国で大規模な国際大会を開催する案について提案を受けた。しかしながら、我々はこのような形式の大会を開催するつもりはない。ワールドラグビーを含む各国協会の関係者一同は、新型コロナウイルスによる経済的打撃の緩和と、代表テストマッチのスケジュール調整(毎年6月と11月で主に開催も、今年度6月・7月に予定されていた試合は全て延期・中止が決定)に関して建設的な議論を続けている。そしてこの議論の成熟が、ひいては2023年のW杯フランス大会の成功につながると信じている」
バロン氏の案に対するワールドラグビーの反応が素早く、かつはっきりと否定的であることはさして驚くものではない。W杯を模倣した大会を開催してしまうと、ワールドラグビーの最大の収入源であるW杯の価値を、4年に一度というイベント性も含めて相対的に下げることにつながるからだ。2019年大会からわずか2年で世界のトップ16カ国を招いて勝者を決める大会となると、本来の4年周期のW杯の重みや歴史的意味に深刻な影響を及ぼすと考えられる。
W杯は、ラグビーという競技において最高のレベルを誇る大会であり、経済効果においても最大である。選手のコミットメントはもちろん、4年に一度という希少性がファンの情熱を加速させる。ワールドラグビーはそのW杯の価値を下げることは絶対に避けたいと考えているのだ。
加えて、バロン氏の案が採用されると、本来同時期に予定されていたブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズの南アフリカ遠征が延期を余儀なくされる。現状では開催の見通しが立っている来年夏のビッグイベントを動かすことに関して賛成の声は極めて少ない。“アフターコロナ”の世界においてラグビーへの関心を再び高めるという点でも、英国とアイルランドの一流選手で結成されるライオンズと世界チャンピオンである南アフリカ代表の対戦は重要なイベントとなるだろう。
しかし、バロン氏の提案に利点が無いかというと、その限りでもない。今回のように競技全体が経済を筆頭に過去に類を見ないほど落ち込んだ際には、突飛ともみられる発想を取り入れる必要はあるかもしれない。
ワールドラグビーの声明にもあった「建設的な議論」は現在も深められているはずだが、一つ問題となりうるのは、各国の参加度合いや情報の偏りだ。例えば、このバロン氏の案に関して、ニュージーランド代表のイアン・フォスター ヘッドコーチは、27日に地元メディアの取材で初めて知ったと明かしている。
ラグビー界は、再開の時期や、テストマッチの組み合わせ、さらには新型コロナウイルス収束後の経済の立て直しも含め、現実的な着地を求められている。困窮している協会には100億円相当の予算の中から必要に応じた支援を表明したワールドラグビーだが、十分とは言えない。
ラグビーのビジネスとしての側面から、このような世界的な危機にあっても利益を生み出す何かが求められている。
W杯の模倣がそれに当たらないことは確かだが、では何があるのか?
解決が待たれる。