城彰(キヤノン)、チームマンとして生きた。
優勝。
その目標こそ成し遂げられなかったけれど、「満足」と振り返る。
キヤノンイーグルスで過ごした9シーズンは、チームとともに歩み続けた日々だった。
城彰(じょう・あきら)は歴史の扉を開いたメンバーのひとりだ。2012-2013年シーズン、チームが初めてトップリーグの舞台で戦ったNTTドコモとの開幕戦で背番号3を背負い、80分ピッチに立ち続けた。38-14の勝利に貢献した。
あの日のことは、よく覚えている。2週間前のプレシーズンマッチに大敗して迎えた一戦だった。
「練習試合でヤマハにぼろぼろに負け、どうしたら勝てるんだろう、という状態でした。不安を抱えたままの初戦でしたが、勝ち切れた。トップリーグでやっていける気持ちになれたのを覚えています」
城が入社したのは、イーグルスがまだ下部リーグにいた前年。「在籍中、チームが徐々に強くなっていく過程を体験できたのは良かった。その中で、自分も一緒に成長していけたと思っています」と話す。
大分出身。小学4年生の時に別府ラグビースクールで楕円球を追い始め、中学では、ぶんごヤングラガーズでプレーを続けた。
「体が大きかったから」名門・大分舞鶴高校へ誘われ、勉強も頑張って進学。明大に進んだのも、当時の藤田剛監督に声をかけてもらったのがきっかけだ。
「いろんな縁に恵まれました」
就職は、大学ラグビー部への説明会を聞いて決めた。故郷に工場を持っていること。そして、これから強くなっていこうとする意欲に惹かれた。
試合に出たい。入社直後は、その思いが強かったかもしれない。
その気持ちも大事にしながら、チーム・ファーストを真っ先に考えるようになったのは、2年目のある出来事がきっかけだった。
「トップリーグで初めて戦う年の春だったと思います。FWがパナソニックと合同練習をしました。まるで歯が立たなかった。そのとき、思った。自分、自分でなく、チームとしてどう強くなっていくかを考えないと何も始まらない、と」
試合メンバーに選ばれる、選ばれないは、自分ではコントロールできないのだから全力を尽くすだけ。チーム力向上に注力するようになった。
トップリーグ2年目、パナソニックに勝った。
「チャレンジャーとして挑めた試合でした。80分、全員が集中力高く戦えた。どこからでもボールを動かした。いま振り返ってみると、うちがビッグゲームをやるときの要素が詰まっていました」
城は、この試合でも80分ピッチに立ち続けた。イーグルス愛がますます深まった。
うまくいくとき、いかないとき。チームは生き物だから、常に一定の力を発揮するのは難しいけれど、それを追求した。
3年目、豪州留学の機会を得る。名門シドニー大クラブでプレーし、のちに豪州代表となる精鋭たちと同じ時間を過ごした。
充実した彼の地での生活を「個人を高められる期間でした」と話すが、このときもチームに持ち帰るものを自然と探していた。そして、気づいたものがあった。
「みんな、オンとオフの切り替えがすごいんですよ。やる時はやる。試合の日は、キックオフ前のアップから盛り上げる。そして、その役をベテランがやっていました」
こういうことが大事。そう確信した。だから自分も同じように振る舞うようにした。
最前列の、さらに3番。スクラムの要としてのプライドはもちろんある。しかし、それは胸の奥底に秘めてプレーした。
どうして自分がピッチに立てているのか。指揮官の意図を理解するよう心がけた。周囲はいま、このスクラムに何を求めているのか。状況を把握し、押した。
「スクラムを押し切るとチームも盛り上がる。それは理解していますし、そうできたら気持ちもいいのですが、自分が(押し合った後に)顔を上げたときにトライにつながっていたら、それでいいと思ってきました」
そうだから長くプレーできた。指揮官が短期間で交代しても、いつも出番を得た。ラストイヤーも全6戦に出場している。
考える人だったから、多くのものを蓄積してきた。それを、これからは次代を担う若者たちに伝えていきたいと希望する。
引退を決めたとき、高校時代の恩師と電話で話した。「いずれ、大分のラグビーのために」と言われた。同じ気持ちだった。
イーグルスのホームページに綴った惜別のメッセージに、自身が所属してきたすべてのチームを記し、対戦相手も含めたすべての仲間への感謝の気持ちを表現した。
「ラグビーを長くやってきて、みんな仲良くしてくれた。お互いにリスペクトしてきた。その気持ちを表しました」
特に故郷への愛は格別。「スクールとか、高校に恩返しできたらいいですね」と話す。
ラグビー愛好家。世の中に平穏が戻れば試合観戦にも精を出したい。地元に戻って、クラブチームでプレーする夢もある。イーグルスには、「いい選手たちがたくさんいます。魅力的なラグビーができる。いまよりもっともっと多くの人に愛されるチームになってほしいですね」とエールを送る。
NECからの移籍で3年前からチームメートとなった田村優は、大学時代もともに戦った仲間。「他にもまだプレーしている同期は何人もいるので応援していきます」の言葉に人柄がにじみ出ていた。