海外 2020.03.25

沢木敬介(サンウルブズ)のコーチング哲学。

[ 編集部 ]
沢木敬介(サンウルブズ)のコーチング哲学。
1975年生まれの44歳。現役時代はSO/CTBで活躍し、日本代表キャップ7。(撮影/松本かおり)



 選手を成長させるのがコーチの仕事。
 沢木敬介は、必ずそう言う。
 現在は活動再開のときを待っているサンウルブズのコーチングコーディネーター(以下、CC)を今年から務める。初めてのスーパーラグビーでの仕事について、「指導者にとっても引き出しを増やさないといけない場所」と話す。

 開幕からの6戦で1勝5敗。チームが勝利を掴めぬ理由のひとつを、沢木CCは「トライを取り切れぬ詰めの甘さがある」とする。
「例えば(今季第5戦の)ブランビーズ戦。クリーンブレイク、ボールキャリー(ランメーター)、ディフェス突破などの数字は、両チーム間あまり変わらない。でも、(攻撃の)結末が違うのは、ラインブレイクした後のプレーなんです(14-47/トライ数は2-7)」

 そのまま走るのか、パスなのか、タックルを受けるのか。
 パスをするなら誰にする。
 タックルを受けたらどう動くのか。
 沢木CCは、「その瞬間、ボールキャリーする選手が正しくデシジョンメイクできるか、チームが同じ絵を見て動けるか、そこが大事」と指摘する。

 実行できない選手をできるように。それが自分の仕事と自覚し、個々とチームにアドバイスを送る。
 やらなければいけないのは「クセ」の修正だ。
 抜けた後、自分ひとりでなんとかしようとしてしまう。パスする相手を間違える。キックを蹴って好機を活かし切れないケースもある。
 咄嗟のときにどう動くか。選手一人ひとりに傾向がある。それぞれにアドバイスを送る。

 サントリーの監督時代のように、長い期間、毎日指導し、チームを熟成させられる環境とは違う。
 自分なりのスタイルを持つ選手たちが、世界中から集まったチームだ。SHルディー・ペイジ(南アフリカ)やCTBベン・テオ(イングランド)などインターナショナルレベルで実績を積み上げてきた選手もいれば、スーパーラグビーでの実績を持つ選手、その手前のレベルにいる者、トップリーガーも、大学生もいる。
 同じクオリティーのプレーを求めるにも、そのアプローチを変えなければいけない。かける言葉も違う。

 そんな状況に身を置いて、沢木CCは自分自身にベクトルを向ける。
「選手にいくつもの引き出しを持たせるためには、自分も多くの引き出しを持たないといけない。そう言う意味で、自分にとってもチャレンジの場だと思っています」
 チームファーストのプレーでなければ声を荒げる。でも、チャレンジしてできなかったことについては違う。選手個々の現状を頭に、刺激もすれば我慢もする。
 いまいる戦力で自分たちのスタイルを作り上げ、戦い、結果を残す。そんな覚悟がある。

「(スーパーラグビーは)相手のレベルも高いので簡単ではないけど、自分たちのスタイルをやり切ることが大事。それで勝てなかったとしても、通用したことには自信がつく。足りないことも分かる。(なかなかうまくいかなくても)選手たちにアグレッシブな気持ちを持たせ続ける、チャレンジし続ける意志を持たせることがコーチの仕事」
 一時的に努力することは誰でもできる。勝つのは、継続して努力し続けられるチームだ。努力し続けられる選手が多い集団だ。
 サンウルブズをそうするために、自分自身もレベルアップさせる。


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