海外 2020.03.13

「ラグビーをやれる」感謝を勝利のエナジーへ。サンウルブズ、王者へ挑む

「ラグビーをやれる」感謝を勝利のエナジーへ。サンウルブズ、王者へ挑む
地元・ブリスベンでクルセイダーズ戦に挑むLOマイケル・ストーバーク(右)(撮影/松本かおり)
チームをポジティブに引っ張る大久保直弥HC(撮影/松本かおり)


 若手主体でメンバーを組んできたとはいえ相手は3連覇中の王者だ。ベストパフォーマンスを出して僅差で勝てるくらいの相手に、今季積み上げてきたものを出し切る。

 開幕戦でレベルズを倒したものの、それ以降4連敗中のサンウルブズが3月14日、ブリスベンでクルセイダーズに挑む。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、先週末に大阪で開催予定だったブランビーズ戦(ウーロンゴン)、秩父宮ラグビー場を舞台に今週末開催予定だったクルセイダーズ戦は、ともにオーストラリア開催となった。

 2月15日のチーフス戦(秩父宮)を終えた日の夜の出発から、日本を経って約1か月。予定外の長期ツアーが続く中での強豪との対戦だ。

 チームは試合前日の同13日、ブリスベン市郊外にあるブラザーズクラブのグラウンドで1時間ほど汗を流した。長期ツアーとなったが、選手たちの表情は明るい。

 大久保直弥ヘッドコーチ(以下、HC)は開幕前、「国内での何十回の練習より、スーパーラグビーのツアーに出て1試合戦う方が多くのものを得られる」と話した。今回の長期ツアーは、想定外のことだけに困難も多い。しかしHCの言葉通り、一人ひとりの選手の学びは大きい。

 もともとのスケジュールと大きく違うため、練習場所が当日の朝まで決まらないこともある。

 試合前日のキャプテンズランも、最初から組まれていたチームが優先のため、スタジアムを使えない。

 しかし、チームはプロフェッショナルの集団として自分たちでコントロールできない状況には身を任せ、淡々と最善の準備を繰り返している。

「ラグビーをできる幸せを感じてプレーしよう」

 東日本大震災から9年が経った3 月11日に渡瀬裕司CEOがそう呼びかけると、サンウルブズの選手たちは、外国人も含め深く頷いた。

 新型コロナウイルスの影響などでトップリーグは中止や延期となり、日本国内のプレーヤーやファンは、思うようにラグビーを楽しめていない。そんな状況だからこそ、海外での日々が長くなったとしても、自分たちがプレーできる環境にいることに感謝し、結果を残すことで日本のファンに元気と勇気を与えようと気持ちを強めている。

 ともに過ごす日々が長くなる中で、一人ひとりの距離は確実に近くなっている。

 チームビルディングの一つとしてクイズナイトを実施し、チームを組んで盛り上がった。大久保HCの髪はツポウ テビタが切った。そんな触れ合いで心が通じ合うこともある。

 多くの選手が、長く日本を離れたままであることによって不便していることはほとんどないと口を揃える。家庭を持つ選手たちは離れ離れの生活は寂しいけれど、テレビ電話などで子どもたちの顔を見て癒されている。

 日本食が恋しくなっても街に出れば口にできる。足りなくなりそうなものは、例えば、沢木敬介コーチングコーディネーターならコンタクトレンズだ。

 使い捨てのワンデーレンズを使っており、日本から持ってきたものが底をつく可能性もある。ただ、「そうなったらメガネ。髪も伸びっぱなしになって、全然違う風貌になるかもしれませんね」と笑いとばす。

 ただ、同コーチは用意周到だ。2015年に日本代表のコーチングスタッフとしてW杯前から長くイングランドに滞在した経験を活かし、今回は2か月分を持ち込んでいた。

 クルセイダーズ戦の先発メンバーには、CTB森谷圭介以外は外国人選手が並び、LO谷田部洸太郎、SH齋藤直人、CTB中野将伍、FB竹田宜純らはベンチスタートに。大久保HCは「今シーズンここまでの試合の中でのパフォーマンスを評価して組んだメンバー(23人)」と話し、全力で勝利をつかみにいくつもりだ。

 困難で、勝利から遠ざかっている状況の中でも、「下を向いている選手、スタッフはひとりもいないし、チームのことを考えていない選手も誰もいない」と、前向きな仲間たちの姿勢を高く評価する。

 同HCは、選手たちが、花園でのブランビーズ戦、秩父宮でのクルセイダーズ戦の観戦が叶わなかったファンの無念さも胸に刻んで勝利をつかみにいくと信じている。

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