コラム 2020.01.10
【コラム】激しさと、今こそ勇気を。

【コラム】激しさと、今こそ勇気を。

[ 野村周平 ]

 そこで湯浅大智監督は、「自身の身長分まで距離を詰めたら、そこからショートステップ」「自分の外側の肩を相手の内側の肩に合わせる」などといった基本動作を具体的に教え込む。逆ヘッドになりがちな、戻りながら防御するカバーディフェンスの際も、「タックルしたら相手の体より頭が上」になるよう言い続けている。2人がかりでダブルタックルに行く際も、味方同士の頭がぶつからないよう、相手の動きを予測する力を高めるトレーニングを日々積み重ねているという。

「タックルは根性ではなくスキルです。もっと運動を科学するようになれば、逆ヘッドなどによるけがも少なくなり、ラグビーが面白くなる」と湯浅監督は言う。

 昨秋のW杯を振り返る様々なインタビューの中で、日本代表選手の1人が「試合中に脳しんとうになって、その先は覚えていない」という趣旨のコメントをしていた。

 あれだけの死闘、脳振盪は事実なのかもしれないが、もし本当にその状態で試合に出続けていたとしたら、選手の意識はもちろん、ドクターやスタッフの管理能力が問われることになる。「一生に一度」の舞台に出続けたい思いは痛いほど分かるが、インタビューを読んだ子どもたちが「軽度の脳振盪ならプレーしても大丈夫」と間違った解釈をしたら問題だと感じた。

 少子化が進む中、ラグビーは危険だからやらない、やらせたくない、という声を少しでも減らすよう、関係者は努力を続けている。選手や指導者、医師だけでなく、私たちのような情報を発信する人間にも責任は伴う。脳振盪のままプレーすることは決して美談にならない。おかしいと思ったら、たとえ試合に出たくても医師やコーチに相談し、勇気を持って休むことの方がよほど尊い。ラグビー熱が高まっている今だからこそ、激しいけれど、安全なスポーツであることを確立するチャンスなのだと思っている。

【筆者プロフィール】野村周平( のむら・しゅうへい )
1980年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、朝日新聞入社。大阪スポーツ部、岡山総局、大阪スポーツ部、東京スポーツ部、東京社会部を経て、2018年1月より東京スポーツ部。ラグビーワールドカップは2011年大会、2015年大会、2019年大会、オリンピックは2016年リオ大会、2020東京大会などを取材。自身は中1時にラグビーを始め大学までプレー。ポジションはFL。

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