コラム 2019.12.23
【ラグリパWest】首都ではなく、島根でつかんだ人生。 久富連太郎[石見智翠館SO]

【ラグリパWest】首都ではなく、島根でつかんだ人生。 久富連太郎[石見智翠館SO]

[ 鎮 勝也 ]
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 高校に入学直後、花園への思いが押さえきれなくなる。父・龍次郎、母・直子と話し合いを重ねる。両親は早稲田の元監督で現在、日本協会のコーチングディレクターである中竹竜二に相談する。

 両親ともに早稲田の卒業生。ラグビーには関わらなかったが中竹と同期だった。
 安藤は連絡を受ける。
「編入試験をやったのはゴールデンウィーク前だったと思います」
 久富は英国数の3科目のペーパーと面接を受け、パスした。
 結果として、大学までのエスカレーターを放棄する。自らの意志で退路を断つ。

 移動距離は900キロ。最初はカルチャーショックを受けた。
「なんで来ちゃったんだろう、と思いました。自分のイメージでは田んぼが広がるのどかな感じでしたが、ここは寂しかったです」

 学校は日本海に面した江津(ごうつ)にある。県のほぼ中央。大田(おおだ)と浜田の間に位置する。のどぐろなどの魚介類は美味だが、冬は強い風雪が吹き寄せる。高校生に不可欠の渋谷や新宿などの繁華街もない。

 さらに寮生活が厳しかった。
「当たり前ですが、洗濯や掃除は全部自分でやらないといけません。家ではすべておかあさんにやってもらっていました」
 母のありがたみを15歳で知る。

 幸せだったのは楕円球でつながる仲間がいたこと。彼らも同じ境涯だった。夜はLED照明の下、空いているグラウンドで30分はキックを蹴った。捕球してくれる人がいた。

「人のつながりやコミュニケーションの大切さを学びました。ここには全国から生徒が集まってきます。一緒に生活して視野の広さをつけさせてもらえました。物事を受け入れられるようになったと思います」

 都会で同じ階層の人たちとしか付き合ってこなかった久富は、田舎で人生にはさまざまなバックボーンがあることを知る。

 勉強は授業に集中する。時間内にできるだけ覚える。自分なりのやり方を確立。そして、父母と同じ大学への入学許可を得る。

 ラグビー部から早稲田政経への指定校推薦をとったのは2学年上の米田圭佑以来2人目。米田はバックスリーの控えだったため、高校での競技実績は久富が上回る。入学後は米田同様、アカクロに挑む。

 その3年間の集大成は目前に迫る。
 石見智翠館は12月28日、99回大会の1回戦を迎える。相手は富山第一。第1グラウンドで13時55分キックオフだ。2回戦は山口と日川の勝者。そして、3回戦ではAシードの京都成章と当たる公算が高い。

「最終的な目標は日本一ですが、まずは1試合1試合しっかり戦います。その上で元日に京都成章と対戦したいです。僕たちはノーシード。失うものは何もありません」
 花園には3年間出られた。
 島根に来た正しさを最後まで示したい。


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