コラム 2019.12.13

【コラム】大学ラグビー

[ 藤島 大 ]
【キーワード】, ,
【コラム】大学ラグビー
前半24分には自らトライ。帝京戦で、鬼気迫るパフォーマンスを残した慶大FL川合(撮影・山口高明)

 意地の慶應が勝つ。もしくは勝利に等しいドロー。そこまでは予想できた。慶應の4年生がおそろしく力を発揮する。それもわかっていた。でも、慶應義塾大学総合政策学部4年の川合秀和がこんなにまで力をふり絞るとは想像できなかった。

 11月30日。東京・秩父宮ラグビー場。大学ラグビーの価値が可視化された。そこまで2勝4敗の慶應は、すでに大学選手権出場の可能性を断たれていたが、対抗戦らしく、帝京との「ひとつの決戦」に臨み、挑んで、29-24の勝利を収めた。
 
 この午後の背番号6は「鬼神のごとく」だとか「狂気の」なんて形容でもピタリときた。川合秀和は、荒々しい神であり、もはや常識の範疇にはなかった。開始13分過ぎ、当たり、倒れ、拾い、起きて、自陣から独走した。同22分、逡巡や痛覚を死語とさせる突進で、帝京のふたりの頑健なFWにダメージを与えた。約1分後、掘削機を真横に用いたみたいに空間をこじあけてトライを奪った。以後、ずっとタックルとぶちかましと意思を切らさぬポジショニングを続けた。変な話だが、公式にもらったマン・オブ・ザ・マッチの名誉がなんだか幻みたいに感じられた。そのくらい実際の攻守が際立っていた。これも変な話、正式に取材するのも虚しいほどの凄みを覚えた。そこで試合後の交歓会を終えた本人に「学生ラグビーの神髄を見た。敬服します」とだけ声をかけた。

PICK UP