国内 2019.12.12
「最弱の学年」が旋風。大学選手権に臨む日大の革新

「最弱の学年」が旋風。大学選手権に臨む日大の革新

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 選手達が意識を変えただけでなく、組織の変革も形になった。

 2003年卒の川松真一朗は、現4年生の入学と同時にゼネラルマネジャー(GM)に就任し、チームの状況を案じてきた。

 外部からの指導者による体制でも結果が出ず、財務などで細かな問題もあった。それを根本から変えようと就任を要請したのが、学生時代にリーグ戦制覇の経験があり、大学選手権4強入りの1997年にもコーチを務めていた中野監督だ。

 有名指導者を推すOBらの自薦他薦は聞かなかった。反発も意に介さない。「みんな二言目には報酬の額だの拘束時間がどうだの聞いてくる。そうじゃない。日大復活のために純粋に自分を犠牲にしてやってくれる人。それだけが条件だった。中野さんならそうしてくれる」

 川松GMにとって恩師で腹を割って話せる相手。中野氏もクラブ改革への気持ちを受け止めた。会社員をしながらの負担の大きさにも構わず、母校に戻った。

 GMは、自身と監督を補助する人材として、’06年卒で日大高出身の今田洋介に目をつけた。’17年から仕事の合間を縫ってチームに帯同する。選手や指導者としての実績はないが、誰もが一目置くラグビーの知識量とスクラム分析力を持つ。何より、自宅のある横浜から東京の稲城まで通い続ける情熱を評価した。

 中野監督、川松GM、今田コーチという3人のOBが、役割分担をしながらクラブ運営をする体制が整った。ラグビー自体のこと、選手の生活や進路指導、事務局機能といったチーム再生のための項目を挙げ、学生の担当者と連携して組織を建て直した。

 そうして多岐にわたる実務と、指導現場が分業できたのは大きかった。
 プロのコーチ陣にグラウンドだけに専念してもらえる。山梨学院大などを率いた伊藤武ヘッドコーチは流経大OB。FW強化をメインに担当する川邊大督(元九州電力)は法大から。スポットコーチでBKにスキルを授ける森田茂希(元NEC)は立命大の出身だ。

「他大学と比べて決して良い条件ではないと思うが、みんな日本大学のために尽くしてくれている」とGMは言う。プロの熱心な指導と、週末や早朝の今田コーチによるスクラム強化。それを中野監督が、選手の規律面も含めて助言しながら統率する。

 川松GMは「有志OBで骨格を作りたかった。乱れていた輪が一つになりつつある」と胸を張る。全国に散らばるOBに連絡し、高校生のリクルート網も整備し直した。その成果は出始め、今年は例年にない程の有望新人も多く入った。

 改革を推し進め、リーグ戦に旋風を起こした。勢いのまま臨みたい今月15日、大学選手権初戦(熊谷ラグビー場)の相手は関西4位の京産大だ。

 中野監督と川松GMは「運命的なもの」と口を揃える。1部再昇格の’16年、遠征の試合相手探しに苦労する中、快く胸を貸してくれたのが京産大だった。
 大西健監督は本気のメンバーを出してくれた。スクラムで何度も電車道を作られ、驚愕した。

 翌年以降も交流は続き、大西監督から「強くなったな」と声を掛けてもらい、チーム作りの励みになった。今大会を最後に退任する名将に「恩返し」したい思いはある。

 東西の強力FW対決。坂本主将は「自分達も自信があるFWで、真っ向勝負して流れを作りたい」と意気込む。注目を集める戦いは、きっとさらに上昇するきっかけになる。

 無名揃いの4年生の結束で意識を変え、「日大のために尽くす」スタッフで建て直した自慢のチームで、いよいよ大舞台に立つ。

整列して校歌斉唱する日大の選手達


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