国内 2019.11.07

【コラム】都立だからできる。

[ 向 風見也 ]
【コラム】都立だからできる。
他の都立高校に先んじて創部し、戦後期はワイルドなプレーで私学も一目置く存在だった狛江高校。花園予選4強は初。歴史を作った(撮影:向 風見也)

 何を話したらいいか、わかんねーよ。白と黒のジャージィから制服のワイシャツ姿に着替えた3年生がそわそわしているうちに、最後の挨拶が始まった。

 都立狛江高校ラグビー部(狛江)は、全国高校ラグビー大会東京都予選の準決勝を終えたところだった。2019年11月3日、東京の江戸川陸上競技場。「第一地区代表」を決めるトーナメントの準決勝で、昨年度の代表校だった早稲田実業(早実)に7—38で敗れている。

 早実の反則でアドバンテージを得たら一気に大外へボールを回したり、タックルに次ぐタックルで我慢を重ねたりとクラブの文化を示した狛江だったが、相手SOの守屋大誠のキックで自陣に押し込まれたり、ラインアウトの確保に難儀したりするうち、早実に着実に加点された。

 一度、退部したのに再入部を受け入れてくれたことが嬉しい——。自分は強みを伸ばしたらレギュラーを獲れたから、伸び悩んでいる後輩はまず強みを見つけたらいい——。仲間を、大切にして欲しい——。マネージャーを含め計15名いる最上級生が、卒業生や父兄に見守られながら下級生にメッセージを伝える。

 やや湿った空気を払しょくするのは、浦田尚弘主将である。チームに2人いる入学前からの経験者のうちの1人で、卒業後は国際ボランティア活動に携わりたいというナンバーエイトだ。

「ここに来て試合ができたことと、試合が終わった後に1、2年生が泣いてくれたことと、たくさんの応援の人が来てくれたことは…これは全部…僕たちの力なので」

 この一言で部員がどっと沸くあたりに、船頭役の求心力がうかがえる。本当に残したかったのは、自由に戦え、という意味のエールだった。

「都立の良さは伝統がないところなんだから、自分たちに合った戦い方でいい試合をして、花園(全国大会会場の通称)へ連れて行ってくださいっ!」
 
 立大卒業後に中野工業高校、農林高校の定時制に4年ずつ務めた坂本竜太監督は、初めてラグビー部を受け持った前任の三鷹高校で都8強入り。2014年度に多摩川沿いの公立高校へ赴任すると、著しい部員不足に直面する。

 全国のラグビー部の多くがそうであるように、当時の狛江の最大の課題は新入生の勧誘だった。初年度は「15人ぎりぎり。春は(他校との)合同チームで大会に出ました」と坂本監督。学校にはスポーツ推薦やそれに似たシステムはなく、ラグビーの好きな新入生だってそう滅多にいない。本来であればタフに戦うクラブを作りたかった指揮官だが、あえて柔軟性を強く打ち出してゆく。
 
 学内には、オーストラリアのキラウィ高校との交換留学制度がある。語学学習を目的としたシステムだが、これに参加した生徒は約2週間も日本を離れる。そのため多くの運動部では留学を諦めるが、ラグビー部では部員の希望を叶えることを優先した。
 
 歴代の部員もまた、授業と授業の合間の教室移動のタイミング、昼休み、練習前と、わずかな時間を見つけては仲間同士で1年生へ声をかけてきた。同時並行で企画されたのは、中学生対象の体験会。そこへ参加した西東京ラグビースクールの浦田は、2019年度の主将として部員55名の先頭に立つ。

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