ワールドカップ 2019.09.26

堀江翔太はなぜ落ち着いているのか。アイルランド戦でも「コミュニケーション」を。

[ 向 風見也 ]
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堀江翔太はなぜ落ち着いているのか。アイルランド戦でも「コミュニケーション」を。
9月25日に会見をおこなった堀江翔太(撮影:BBM)


 ラグビー日本代表は9月20日、ワールドカップ日本大会の開幕戦でロシア代表に30-10で勝利したものの、普段しないようなミスを重ねた。東京スタジアムの取材エリアでは、「緊張」を口にする選手が複数いた。

 しかし、背番号2で先発の堀江翔太は違った。

 前半4分に先制された直後のキックオフでは、捕球した相手へ強烈なタックルを打ち込む。密集の近くでパスをもらえば相手の防御をうまくいなし、味方へのサポートで向こうの反則を誘った。いつも通りに戦っているように映った。

「ちゃんとやれば…って感じだったので。落ち着いて、いい判断をして、声出して、っていうのは意識してやりました。こういう展開になるかもしれんな、っていうのは頭に入れていた。こういうこともあるし、うまいこといく時もある。ラグビーって、どっちにもなる」

 身長180センチ、体重104キロの33歳。スクラム最前列中央のHOを務めており、国際リーグのスーパーラグビーではオーストラリアのレベルズ、日本のサンウルブズの一員として活躍。ワールドカップは今回が3大会連続での出場となり、異空間とも言える今度の舞台でも冷静さを保った。

 いったいなぜ、平常心でいられたのか。仲間たちの心情をおもんばかりながら、こう答えた。

「初戦はやっぱ、緊張しますよ。僕は、(試合前に)モチベーションを上げつつ、下げつつ…ってことをやりながらきたのですが、それくらい(繊細に)意識せんと、緊張するんじゃないですか」
 
 決戦前までの数日間で、「モチベーションを上げつつ、下げつつ…」。こんな心の動きについてさらに詳しく明かしたのは、試合から5日後の取材機会でのことだ。28日の2戦目に向け、会場のエコパスタジアムがある静岡県内で調整中だった。

「僕は結構、練習で緊張(感)を持ってやってるので、試合前は『やっと試合がきた』って感じ」

 俗にプレッシャーと呼ばれる心理的重圧には早い段階で向き合いながら、当日は試合中にすべき自らのタスクにのみ集中するというイメージか。

「試合ではたくさんある自分の仕事を集中してやれば、チームがいい状態になってゲームにも勝てると思う。自分のやることにフォーカスしてやれば、そこまで緊張はせんかなぁと思います」

 次の相手はアイルランド代表。初戦でぶつかったのが2大会ぶり出場のロシア代表だったのに対し、今度の相手は2018年の欧州王者という強豪だ。負けられない重圧にさいなまれるよりチャレンジャー精神を持ちやすそうな状況下、堀江はチームが平常運転するための「コミュニケーション」を取りたい。

「僕らが準備してるところをどれだけ試合で出せるかっていうところでは、もし準備していることを試合で出せなかったときにどうするかも考えながらやってる感じです。(準備していることが)出せれば…。勝てると、思います」

 ここでの「準備」のひとつには、チーム全体でボールを継続しながらスペースを作る動きがある。攻撃中は、所定の陣形を保ちながらランナーへのサポートや適切なプレー選択を促したい。堀江はそのために、頭と目と口を動かす。

 機密事項に抵触しない言い回しで、なるたけ具体的に決意を明かした。

「ボール継続する部分は大切になるので、その部分でFWに指示出せればいいかなって思いますね。(司令塔の田村)優に(意思決定を)任せきりにするんじゃなくて、ゲーム中もコミュニケーションを取りながらやっていきたい。適切なコール(プレー選択などをひとことで表す単語)分が大切やと思います。優がラック(接点)に入ってしまって(攻撃陣形のなかに)いなくなる時もあるので、その時に(コールを選択する)手伝いができればというところっすね。シェイプ(陣形)だのなんだのというのがあると思うんですけど、その時、その時にどれを使えばいいかを決めるサポートをする」

 この先、動じない人の存在感は増すばかりだろう。

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