ワールドカップ 2019.08.29

【コラム】「切実」の結晶。

[ 直江光信 ]
【コラム】「切実」の結晶。
8月20日、最終選考の網走合宿で地を這う日本代表候補41名。8月29日、ワールドカップメンバー31名が発表された(撮影:髙塩 隆)

 先日、ある現役日本代表選手の父君と話をする機会があった。ちょうどラグビーワールドカップへの最終セレクションの場となった網走合宿の直前の時期だ。

 客観的に見て、その選手は代表メンバー入りの当落線上という立ち位置だった。同ポジションには実力と実績を兼ね備えた外国出身選手がひしめき、貴重な実戦でのアピールの機会だったパシフィック・ネーションズカップではプレータイムを得られていない。一方で、他のどの選手にもない個性的な持ち味は、「極限のプレッシャーがかかるワールドカップの舞台でこそ威力を発揮するのでは」との予感も抱かせる。

 網走へ向かう前、選手は父に「誰を選ぶかは自分が決めることじゃない。自分のやれることを精一杯やってくる」と決意を口にしたそうだ。多くの選手が「人生で一番キツかった」と口をそろえる猛練習を耐え抜き、自国で開催される歴史的大会への出場にもう少しで手が届くところまでたどり着いたのだから、なんとしてでも選ばれたい気持ちがあるのは当然だろう。そんな状況でも、複雑な心情を露わにはせず、ただただ自分のすべきことのみにフォーカスする。なんたる精神力だろうか。

 父君は自身もラグビープーレーヤーだったから、子息の気持ちは痛いほどわかるはずだ。むしろ、我が子だからこそ、本人以上に冷静ではいられないところもあるだろう。その心境を想像すると——胸が一杯になった。

 4年に一度ではなく、一生に一度。ワールドカップ開幕が近づくに連れて、そんな言葉の重みをひしひしと実感するようになった。そして、その夢舞台に立つために、最後まであきらめず「自分のやれること」に死力を尽くす選手は、他にもいる。

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