両親の故郷に激突。日本代表ウィリアム・トゥポウは「もっと強くならなければ」
8月3日、大阪・東大阪市花園ラグビー場。日本代表とトンガ代表がぶつかる直前、場内に『君が代』が流れる。日本代表の面々が肩を組む。
トンガ出身でNO8のアマナキ・レレイ・マフィが明確な形で感極まる右隣で、下を向くのはFBのウィリアム・トゥポウ。ニュージーランド・オークランド出身でこの日に8キャップ目(代表戦出場数)を受け取るトゥポウも、トンガにルーツを持っていた。
「国歌斉唱の時はいつでも感情が昂るものですが、特にきょうは私の両親の出身国であるトンガ代表が相手。そんな試合に出られることは誇りに感じました」
曲が終わると、さらに右隣に立つSOの田村優に肩をぽん、と叩かれる。本人は言った。
「彼はきっと、私にとって両親のルーツ国と戦うことにどんな意味があるのかを分かってくれていたのだと思います」
オーストラリアのブリスベンステート高時代は同国の高校代表にも選ばれ、ラグビーリーグ(13人制)のトンガ代表にも選出された過去も持つ。13人制のノースクイーンズランド・カウボーイズを経て、フォースの一員として15人制のスーパーラグビー(南半球主体の国際リーグ)も経験し、2014年に来日。日野自動車を経て2016年からはコカ・コーラでプレーしている。
身長188センチ、体重101キロのサイズを誇り、攻めては相手を巻き込みながらのオフロードパス、守っては強烈なタックルを繰り出す。2017年、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ体制の日本代表でテストマッチデビューを飾り、29歳となった今年はワールドカップ日本大会を目指す。
2017、18年は、日本代表と連携を密にするサンウルブズに入ってスーパーラグビーでもプレー。今季は「そんなにお話しできることはないが、とにかく家族との時間を取った」とサンウルブズではプレーしなかったが、多くの日本代表候補が集まるウルフパックというチームには帯同。6月に始動した日本代表の宮崎合宿でも汗を流し、7月27日に始まった国際大会のパシフィック・ネーションズカップ(PNC)では日本代表のFBとして2戦連続で出場中。『君が代』を聞いて心を震わせたトンガ代表戦は、その2試合目にあたった。
「私自身は決してベストではなく、自分の立ち位置を見つけるのに苦労したところがありました。ただ、チームのパフォーマンスは良く、得点もでき、ゲームプランも遂行できていた」
トンガ代表を41-7で制したこの日、トゥポウは取材エリアでこう述懐する。本職のアウトサイドCTBと異なるFBを務めるなか、キックや位置取りで難儀。しかし「いまのゲームプランにおいて、私の役割は防御で相手を止めること」と、相手のセットプレー時は相手司令塔の対面に入る。持ち味は活かしている。
ワールドカップは9月に開幕する。PNCにはワールドカップの前哨戦という意味合いも帯びそうだが、トゥポウはこう言い切る。
「まさにワールドカップが近づいていて、もっと強くならなければとも思います。ただ、いまの自分たちがフォーカスしているのはこのPNCです。そのなかでいろんな事を積み上げ、よりよくなろうとしています。強くなるために、お互いが助け合っています。そして本番が来たら、一気にそちらへ切り替えます」
トンガの血を引く家族思いの戦士はいま、日本代表という「家族」で献身を誓う。