その他 2019.07.27
ラグビーのまちで良かった。釜石の旅館「宝来館」女将、岩崎昭子さん

ラグビーのまちで良かった。釜石の旅館「宝来館」女将、岩崎昭子さん

[ 多羅正崇 ]

 あれから8年が経って、2019年7月6日、女将は仮設スタンドを備えた約1万6千席収容の釜石鵜住居復興スタジアムで、釜石シーウェイブス×北上矢巾ブレイズラガーの練習試合を見ていた。

「仮設スタンドの中で見るのは初めて。スタジアムらしくなった。集中してラグビーだけ見れるから、これはやっぱり良いね」

 この8年で釜石はワールドカップ日本大会の開催都市となり、2018年夏にプール戦2試合の会場となるスタジアムが完成した。そして2019年7月27日には、パシフィック・ネーションズカップ2019の日本×フィジーの舞台にもなる。

 女将はあの日語った希望を叶えた。本当に宝がやって来た道のりを笑顔で振り返った。

「私には招致の苦労はないの。叶うかどうか分からないまま動いてくれていた皆さんが、いろんなことを越えながら、いろんなことを言われながら、ここまで運んでくれたので」

 ラグビーのまちで良かったなと思う。女将さんはそう言って故郷を誇った。
 かつては日本選手権7連覇の“北の鉄人”、新日鉄釜石ラグビー部のラガーマンに憧れた。選手に会いたい一心でダンスを習ったこともあった。

「私たちの世代は、森さん(重隆)とか松尾さん(雄治)とか。チームがラグビーで勝ち始めて市民と交流させましょう、の年代なの。今はないけど小川体育館でダンスパーティーとかもあって。二十歳の頃か、ラグビー選手に会うために社交ダンスを習ったの(笑)。実は森さんとも手をつないだような気がするんだけど、誰も覚えてないでしょうね」

 その大ファンだった元日本代表主将の「森さん」は、新日鉄釜石では選手兼監督で4連覇まで出場。その後家業を継いで福岡高監督、九州協会会長も務め、そして今年6月、ラグビー協会の新会長になった。

 女将さんは、釜石という土地の不思議な力を感じずにはいられなかった。

「私は松尾さんも石山次郎さんもファンなんだけど、森さんが釜石を離れるときは、釜石のラグビーが終ってしまうというくらい寂しかった」

「でもいま協会の会長さんになって、釜石は守られてるなと思います。釜石を守れのメッセージのような気がして」

 もちろん釜石の主役は、釜石のいまを生きる人びとだろう。
 釜石を守るたくましい女性は、きょうも笑顔で大漁旗を振っている。

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