【ラグリパWest】父をたずねて500キロ。 飯泉苺子(まいこ)/東大阪市立英田(あかだ)中学校1年生
そんな街に娘はひとりでやって来た。
父は昨年4月、ゼネラルマネジャーになった。立て直し役に抜擢される。チームはトップリーグで最下位16位となり、トップチャレンジに自動降格した。それまでは、東日本の大学生のリクルートをしていた。
1年目は単身赴任で終える。2年目はまな娘が同居してくれた。
「一人で暮らしていると話ができないことのつらさを感じます。練習がオフの時は一日誰とも話さない日もあります。でも、この子がいてくれると、そういうことはない。毎日、何かしらの会話はあります」
うるさいぐらいコミュニケーションはとれる。孤独感はない。その幸せを感じている。
入学のため、住民票を移す時、窓口の市職員とのやり取りに時間がかかった。
「おくさんと下の娘さんは東京に残って、上の娘さんと2人で本当に暮らすんですか」
ある種の偽装を疑われたが、母・奈美江、2つ下の妹・凛子を含め家族仲は良好だ。
娘は塾に通う月、木以外はごはんを作る。
「最初はメインと小鉢で3品を作ってくれていましたが、2品でいいよ、と言いました」
父は負担を減らさせる。炒め物が中心になる料理は自分なりにネットなどで勉強した。
「調味料の分量が決められているのが苦手で」
娘は豪快ながら、味つけはうまい。
二重生活のため、家計は窮屈(きゅうくつ)だ。おかずは2日で1000円。河内花園のスーパーでは主婦と同様、特売品に足が向く。
「チョコミントのアイスクリームが大好きなのですが、それをかごに入れてしまうとほかのものが買えなくなります」
好物を横目にしながら、やり繰りを考える。翌日、学校に持っていくお弁当は、前夜の残りものが主になる。
結婚前、客室乗務員をしていた母はしっかりした子育てをした。
学校で使う上履きは洗い方を教えた上で、本人たちにやらせた。小さくとも自分でできることは自分でやる。人には頼らない。その教育は今、大阪で生きている。
ライナーズは昨季、トップチャレンジで3位と低迷した。入れ替え戦は日野に11−21で敗れ、再昇格はならなかった。
46歳の父にとって、今年は勝負の年だ。
「結果を残して、帰ってきてほしいです」
娘はきっぱり言った。
吉村太一は43歳。飯泉を補佐するチームディレクターは31歳下から学ぶ。
「行動を起こす時、最初はなんでも反対されるんですよね。ただ、それを乗り越えていく強さがあるかどうかなんですね」
大阪行きに対する反対は、チームに置き換えれば試合相手である。苺子は500キロという物理的な距離以上のものを超えてきた。
創部90周年を誇るライナーズにとって、戦うためのお手本は、ごくごく身近に存在していることになる。