国内 2019.05.10

主将からレギュラー奪いたい。明大・松岡賢太の「マインド」の変化とは。

[ 向 風見也 ]
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主将からレギュラー奪いたい。明大・松岡賢太の「マインド」の変化とは。
明治大学HO、松岡賢太。身長175センチ、体重100キロ(撮影:向 風見也)

 最上級生となった今季、自分のポジションのレギュラー選手が主将になった。そんな状況下、明大ラグビー部の松岡賢太は、「『自分は出られないのかな』とネガティブに捉えてしまった」という。

 京都成章高時代は高校日本代表となるなど、スクラム最前列のHOとして入学前から期待された。しかし1年時の関東大学対抗戦Aでは、國學院栃木高出身の同級生でNO8から転向した武井日向が7戦中6戦に先発。松岡は1試合で控え入りしたのみだった。2年目以降も主戦級を張ったのは武井の方で、20歳以下日本代表入り争いでも武井が勝った。

 22シーズンぶりの日本一に輝いた昨季の大学選手権決勝でも、スターターは武井で松岡はリザーブ。リーダーシップと運動量に長けたファイターは、そのまま船頭役となった。そのため新チームが始動した冬、松岡は漠とした不安を抱えていたのだ。

 もっとも春になれば、「そんなことを思っているのは時間の無駄だと思うようになりました」。当初から5月までの心境のグラデーションを、こう振り返った。

「最初の1週間くらいは『頑張ろう』という気持ちもあったんですけど、(次第に)『日向が主将か』と。…でも、主将が試合に出なきゃいけないというルールもないですし、毎日、毎日、練習で全力を出し、武井と競争するメンタルに切り替えました」
 
 ネガティブな思考を払しょくできた裏には、指揮官の言葉があった。

 一昨季ヘッドコーチを務めた就任2年目の田中澄憲監督は、個人面談で松岡に「武井はどんな人間で、どんなプレーヤーで、どんな点で信頼されているのか」を伝達。「松岡も、信頼されるプレーヤーになりたいよね」と付け足した。

 松岡はその時、自身が武井に勝っている点、あるいは劣っている点を具体的に伝えてくれたのが嬉しかった。いち選手として、「強みや弱みを具体的に知ることで、どこを成長していかなきゃいけないかを明確にできた」からだ。ここで見つけた最大の改善点は「日々の練習で練習の強度に波がある」だった。武井が丹羽政彦前監督時代から「信頼」されてきた理由は、その日ごとのパフォーマンスに「波」がなかったからだと知れた。

 武井主将、山村知也副将以下に6名並ぶリーダー陣の1人でもある松岡は、いまの自分だからこそ示せる最上級生の態度を、おぼろげながらに見出している。

 いつも、全力を出し切る。

「去年はどこか先輩に付いて行っている自分がいたんですが、今年はリーダー。かつ、主将とのポジション争いがある。主将と本気で競争する姿を、後輩に見せられるよう意識しています」

 グラウンド内では武井としのぎを削るが、グラウンド外では武井とともにチームをよくしたいと考える。リーダー陣同士での話し合いでは、武井が「私生活の部分」について強調するのを頼もしく思う。

「忘れ物、トイレや風呂場の整理性と…。ここは、気のゆるみで甘くなることが絶対にある。まずリーダー陣がそれを率先してやっていき、後輩に促せるよう働きかけようと話しています」

 松岡の心に刺激を加えた田中監督は、主将のポジションでバトルが起こるのを歓迎している。サントリーでの現役時代は、オーストラリア代表の伝説的SHであるジョージ・グレーガンとも定位置争いをしている。競争がチームを強くする現実を、皮膚感覚で認識しているだろう。

 背番号2を本気で目指す4年生の日常に触れ、「安定感が出てきた。前までは特にラインアウトの部分で自信がなかったりしていましたが、いまは自信のなさが見えないです」と喜んでいる。

「松岡は主将に遠慮する気もさらさらないですし、僕らもそういうもの(競争意識)を望んでいます。それが武井へのプレッシャーにもなり、お互い成長できる。(チームとしても)同じポジションで(選手間の)差が出ないよう強化していきたいです」

 5月4日、東京・明大八幡山グラウンド。関東大学春季大会Bグループの2戦目では、武井ら4年生のレギュラー候補がメンバーから外れた。松岡は、先発のチャンスをつかんだ。

「強みのボールキャリーの部分ではアピールしよう」との言葉通り、SH周辺のユニットに果敢に加わり何度もパスをもらった。人垣を破った。守ってもチェイスライン上や自陣ゴール前の防御網にあって、何度もロータックルを放つ。青山学院大を相手に、序盤からスコアを重ねて36-5とリード。ただし前半30分程度で雷雨のため中止となり、やや消化不良に終わったか。

 そもそも自身のパフォーマンスに、決して満足しなかった。

「ラインアウトとスクラムを安定させられたことはよかったですが、もっと相手ボールのセットプレーでプレッシャーをかけたかった。まだまだ満足はできていない。タックルの回数が少なく、その一本、一本があまり激しくなかった。アグレッシブなプレーが持ち味だと思っているので、どんな相手にも激しくやっていきたいです」

 物語はまだ始めたばかり。12日には明大グラウンドで、筑波大との春季大会3戦目に背番号16をつけて挑む。

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