「いちばん下にいる」。日本代表候補合宿に合流の立川理道、這い上がる。
日本代表キャップを55も持つ。29歳のCTBが「練習生」として招集された。
複雑な胸中は想像に難くない。
しかし、立川理道は前向きだった。
3月5日、千葉・浦安で活動中の日本代表ラグビーワールドカップトレーニングスコッド(RWCTS)へ急遽呼ばれた。
チームから連絡が入ったのは前日の夜。
「(所属しているのが船橋にある)クボタなので近いとか、いろんな理由が重なって呼ばれたのかもしれませんが、偶然だとしても、この機会をものにしたい」
3月10日からは、沖縄へ移動して合宿は続く。そこに参加できるかどうかは、この3日間で決まる。初日の練習を終え、「あと1日半。ハードな練習の中でも自分の持ち味を出し切る」と話した。
日本代表の首脳陣から「求めるレベルに達していない」との評価を受け、日本代表での試合出場は昨年6月のジョージア戦が最後。ワールドカップを目指すトレーニングスコッドからも名前が漏れていたのだから、今回の招集は立場がどうであれ「嬉しかった」と素直に話す。
「最後にプレーしたのはチャリティマッチ(日仏ラグビーチャリティマッチ/2月2日、対クレルモン・オーヴェルニュ)なので、ラグビーをする感覚からは離れていました。きょうは感覚を取り戻す時間でした。いまチームがやっていることを理解し、自分の強みを出していきたい」
所属チームが現在は活動していないため、ボールを使っての練習はできなかった。しかし、「いつ呼ばれてもいいように準備していた」という。
「いろんな人たちに助けてもらいながら、モチベーションを高く持ち続けていました」
悶々とした時間。家族の存在が自分を支えた。セレクションの話には触れず、穏やかな時間を作ってくれた。
両親も同じだった。
仲間のサポートも力になった。
ネガティブなことは口にせず、「諦めずに頑張って」と励ましてくれた人たち。
今回の知らせを受け、「いまがスタートライン」と応援してくれる。
「その人たちのためにも精一杯やりたい」
静かに闘志を燃やす。
久しぶりに加わった代表は、以前との違いを感じるところもあった。
ライバルたちから感じる成長と自信、そして覚悟。チームがやっていることも、キックの比率など、少し変わっていた。
「いい選手ばかりだし、チーム全体から、『ワールドカップで勝つ』という、強い気持ちが伝わってきました。いまやっていることに自信を持ってハードワークしている。昨年の6月より、『これで戦っていく』というものを感じました」
競争の中に身を置ける。それは、アスリートとして何より幸せなことだ。
経験豊富な男は、苦しい立場にあることを自覚しながらも強い意志を示す。
「見てもらったように、(練習中に着る)ジャージーも(他の選手と)違う。セレクションの中ではいちばん下にいます。背負うものはありません。以前のように、キャプテンとか、リーダーというプレッシャーもない。目の前のことをやり切る」
ふたたび熱狂の中に身を置きたい。