日本代表候補合宿に追加招集の木津悠輔は、「無名校出身」の経歴に甘えない。
翻意して入った天理大は、関西大学Aリーグの強豪だった。ポジションをもともとのNO8からPRに変えた木津は、元ワールドの岡田明久コーチに「気持ちを前面に出せ」と発破をかけられながら低い姿勢でのスクラムを習得する。防御ではかねてからの頑健さを活かし、頭角を現した。
全国大学選手権で4強入りした3年目のオフには、若手育成グループのジュニア・ジャパンに入る。フィジーでの「ワールドラグビー パシフィック・チャレンジ 2017」で、環太平洋諸国の代表予備軍とぶつかり合った。
この時の仲間には、今年、木津より一足早くNDSからRWCTSキャンプへ引き上げられた堀越康介もいる。当時帝京大3年で現サントリーの堀越に、木津は「身体が強くて仕事をしっかりする3番(右PR)」と見られる。
2018年にはトヨタ自動車に加わり、国内最高峰のトップリーグで主力に定着。リーグ戦、順位決定トーナメント、カップ戦を含めて全15試合中12試合に出場(11試合先発)した。成功体験の積み重ねで自信をつけていった。
「大学でトップリーグから声がかかり始めて、自分がそういうふうな選手なのだと思いはじめて。ジュニア・ジャパンに初めて呼ばれ、サモア、トンガという外国の選手とやって、負けない部分もあって。(世界で)やっていきたいなと」
同時並行で抱いたのが、「無名校から入ってそこにいるのがいいのではなく、そこでしっかりとやることが評価につながる」という思いだった。自問自答の末に結論づけた。
「天理大がベスト4に入って取材が多くなり、そういうこと(出身校に関する質問)を聞かれるようになって、そう感じるようになりました」
今回のキャンプへの参加権は2月2日、岐阜メモリアル長良川競技場での「日仏ラグビーチャリティマッチ」で勝ち取ったと言えよう。
「トップリーグ選抜」の一員として、フランスのクレルモン・オーヴェルニュのランナーに何度も低く突き刺さった。身長178センチ、体重113キロというサイズは国際舞台では大柄と言えないが、向こうの巨漢とのぶつかり合いでも引けをとらなかった。
敵陣ゴール前でのシャープな突進も披露。トライラインを割れないと見るや体勢を変えて味方にボールをつなぐなど、丁寧な動作も光った。視察に来ていた日本代表の薫田真広強化委員長、藤井雄一郎同副委員長、長谷川慎スクラムコーチが揃って太鼓判を押した。
本人は決意を込める。
「もともと器用な方ではなく、天理大でも小手先のプレーではなく激しいプレーも求められていた。それが(現在の成長に)つながっているのかな、という感じがします。もっともっとインパクトあるプレーをしたいとは思います。アタックであればゲインをしたり、タックルでは低く入ったりと」
ここから目指すのは、無名校出身のワールドカップ戦士ではない。ひとりのワールドカップ戦士だ。