国内 2019.01.18

防御で身体張って優勝。明大3年の石井洋介は「進化したメイジを」。

[ 向 風見也 ]
防御で身体張って優勝。明大3年の石井洋介は「進化したメイジを」。
大学選手権決勝で天理大のファウルア・マキシにタックルする明治大6番の石井洋介(撮影:松本かおり)

 責任感に背中を押されていた。

「4年生がいたおかげでここまで来られた。4年生に勝たせてあげたかった」

 1月12日、東京・秩父宮ラグビー場。明大3年の石井洋介が何度もロータックルを打ち込む。天理大との大学選手権決勝でFLとして先発し、身長183センチ、体重100キロの身体をこれでもかとぶち当てる。優秀な高校ラグビーマンが多く集う明大には、なかなか試合に出られない「4年生」がたくさんいる。背番号6は、自ずと必死になった。

「お互いどんどんコンタクトをしていた。プレーがそんなに切れる感じがしなかった。どちらも疲れているなか、集中しようと声を掛け合っていました」

 対する天理大は、固いスクラムと防御の裏へのパスを長所とする。もっとも明大側から見て脅威とされたのは、3人のトンガ出身者だったろう。LOのアシペリ・モアラ、NO8のファウルア・マキシ、アウトサイドCTBのシオサイア・フィフィタという大型ランナーは1対1に強く、防御に隙間を見つければ勢いよく突破する。

 明大の田中澄憲監督は戦前、留学生を「気にしすぎない」と口にしていた。しかしその一方で、当該選手の立ち位置をチェックするよう意識づけてもいた。

 東京・明大八幡山グラウンドでの前日練習時は、「仮想・天理大」を務める控え選手15名のうち3名が他の12名と違う色のビブスをつけていた。攻防が重なるなか、向こうのキーマンがどこに立っているのかをチェックさせるためだろう。試合当日は、骨格や風貌の異なる3名に同じようなことをすればよさそうに映った。指揮官は「ビブスの色が足らなかったからですかね」とおどけただけだったが…。

 石井も「3人の外国人にゲインされると相手のラグビーをされる。しっかり身体を当てる」と強調。当日、キーマンたちとのマッチアップに首尾よく対処した。

「1人じゃ止められないところもありました。そこは皆と共有し、2人、3人ででも止めようという話をしていました。ディフェンスをしている最中、トライされた後の円陣やセットプレーの前などに、相手がどこにいるか、自分の対面は誰かといった話を共有していました」

 決定的な仕事をしたのは、12-5と7点リードで迎えた前半33分。自陣22メートル線付近で、ラックサイドを抜け出したマキシに絡む。

 腰を落として前傾姿勢を作り、膝を地面とすれすれの位置まで折り曲げる。腕を伸ばし、マキシの持つボールへ指をかける。天理大のサポートにはがされそうになりながらも、体勢を変えない。

 間もなく、走者が寝たまま球を手放さないノット・リリース・ザ・ボールの反則を誘う。ピンチを脱し、仲間に感謝された。
 
「少し流れが悪かったので、それを変えてやろうという意識で狙っていました。相手には少しゲインを切られていたので、『(ボールは)獲れる…かなぁ』という感じ。ですので、球出しを遅らせるだけでもよかった」

 後半も石井は身を粉にした。後半35分の交代時は、まさにオールアウトといった顔つきだった。

「まだまだフィットネスを上げていかなきゃなと思いました」

 22-17のスコアで22年ぶり13度目の日本一を決めるも、反省を忘れなかった。

「天理大さんはコンタクトレベルが高くアグレッシブでした。その分、ディフェンスで身体を張らないといけなかった」

 神奈川・桐蔭学園高3年時、2015年度高校日本代表に選ばれた。明大では今季から本格的にレギュラー争いへ絡むが、11月4日の秩父宮で悔やまれるシーンに出くわす。

 加盟する関東大学対抗戦Aの慶大戦。後半29分から途中出場していた石井は、続く36分、自陣深い位置で手痛い突破を許してしまった。

 相手ボールスクラムを後列左から押し込むなか、抜け出してきた相手NO8の山中侃を捕まえられなかったのだ。24-28と逆転され、そのまま負けた。

 試合後、SHの福田健太主将は「最後に抜かれたのは洋介ですけど、洋介のせいじゃないと僕は思います。あの時間帯、あの場所でスクラムを組む状況を作ってしまったのがよくなかった」と石井をかばう。もっとも当の本人は、自責の念にさいなまれた。

「あそこで抜かれて、自分のせいで負けた。その時から一個一個の練習を大切にして臨みました。自分のミスで負けて4年生が引退するのは絶対に嫌だったので…」

 以後、石井はメンバーから外されるどころか先発の座を奪うようになった。続く11月18日は、背番号6をもらって秩父宮に立つ。大学選手権9連覇中だった帝京大に、23-15で勝利。以後もスターターとして身体を張り、決勝の舞台にたどり着いていた。

「4年生は皆ラグビーが好きで、チームのために頑張っている姿が普段の生活でも見えていた。尊敬していました」

 大学選手権前の決起集会などで結束した最上級生に、ただただ賛辞を贈る。来季は自身がその立場となるだけに、日本一となってもなお気を引き締める。過去の成績を踏まえながら、「進化したメイジを作りたい」と話すのだ。

「選手権に入ってからも、初っ端の時間帯にトライを取られることがありました。そういうメイジらしさはなくしていかないと、強いメイジにはなれない。1年生の頃は選手権3回戦敗退に終わったメイジを、2年の頃は選手権で準優勝したメイジを、今年は優勝したメイジをと、さまざまなメイジを見ることができた。それらを踏まえて、何をすればよいのかを同期たちで話し合いたいと思います」

 今度は誰からも尊ばれる最上級生として、決勝戦の舞台に立ちたい。

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