チームの成熟に自信を持ち始めた明大 最高の舞台でのリベンジに臨む
「僕たちは、力があるのはわかっているが、チャレンジャー」
2年連続での正月越えを決めた東海大戦勝利の後、重戦車8人を束ねるFL井上遼FWリーダーが口にしたこのフレーズこそ、紫紺のジャージの現況を的確に言い表したものだろう。
昨季は大学選手権決勝で、V8を続けていた帝京大を追い詰めながらも1点差負け(20—21)。
今季はその大学王者に対して、春、夏に続いて、対抗戦でも8年ぶりに勝利。
その一方で、慶大、早大というオールドエネミーに苦杯をなめ、対抗戦4位扱いという一種の“特別枠”で大学選手権へ。
対抗戦1、2位であれば避けられた3回戦からの出場となり、4強組の中で唯一12月に3試合を戦っての正月越えとなったが、「力があるのはわかっているが、チャレンジャー」であるメイジにとっては、そのハードスケジュールが逆に良かった。少なくとも、本人たちはそう捉えている。
「早明戦で負けて、(大学選手権での)トーナメント的には苦しくなったが、それをマイナスに捉えるのではなく『あれがあったから優勝できた』と言えるように練習してきた。課題をしっかり消化できたからこそ、(準決勝に)勝ち上がれた」
関西2位の立命大(50−19)、関東リーグ戦1位の東海大(18—15)という骨のある相手に対してしっかり勝ち切ったことで、早明戦敗戦という紫紺のジャージを纏う者には最大の屈辱と言ってもいい“地獄を見た”時よりもチーム力が格段に高まっている――そう本人たちが感じているのは、前述のように語るFWリーダーの表情からも間違いないだろう。
特に、「大学の中ではああいう強いモールを組むところは他にはない」と、田中澄憲監督も警戒感を露わにしていた強力FWを擁する東海大との準々決勝で見せた前8人が仕事をした上でのゲームマネージメント力は、22年ぶりの大学王者へチャレンジするチームに相応しいものに思えた。
「モールで1、2本は取られても仕方ないと思っていたが、勝負どころではしっかり止めることができた。(ブレイクダウンの攻防でも)2人目が速くリアクションする意識をチームで共有できた。厳しいゲームだったが、テーマに掲げた『フィジカルファイト』をチーム全員で体現してくれた」(田中監督)
早明戦時には「計画どおりではない」(田中監督)と、認めざるを得なかったチームの成熟度が一気に高まっているのではないかと感じさせたのが、後半30分に同点に追いつかれた後、最後の10分間の攻防で見せた実に冷静な勝ち切り方だった。
「今までだったら、残りの10分、パニックに陥っていたのが、トライを取られた後もしっかりコミュニケーションができて、次のキックオフからどうするのか明確に話せていた。コンバージョンが外れ(て同点だっ)たら奥に蹴って、天候も良くなかったので、敵陣に入ってプレッシャーをかけていく。そうすれば相手もミスするし、マイボールにして攻めようと。東海大のディフェンスも堅かったが、井上がFWでいけると言っていたので、BKはサポートに徹した」(SH福田健太主将)
思惑どおりに敵陣でボールを得た明大は、ひたすら「FWのピック、強みにしているところ」(同主将)でボールキープを続けながら敵陣に居座り、最後の最後に我慢しきれなくなった東海大ディフェンスの反則を誘ってPKをもぎ取り、3点差での勝利をものにした。
「最初からFWでガンガン前に出てスコアしようと言っていて、最後にああいうかたちでスコアできて勝ち切れたのは、メイジの成長につながる」(井上)
あるいは、FW陣にとっては最難関だったかもしれない東海大との力勝負を制しての4強入りだけに、「チャレンジャーの力」が1か月前のリベンジを果たしてもおかしくないほどに成熟してきたことを、早明再戦にこぎつけたメンバーたちは実感している。
「1対1のフィジカルのところで勝てている。こだわっていこう」
モールも、NO8テビタ・タタフという核弾頭の存在も大学レベルを超えていたと言っていい東海大との対戦では、序盤に体を当てた段階でFWは自信を持てていたと井上は言う。
その感覚は、早明戦で対戦しているワセダに対しては、再戦前から持っているものかもしれない。
「(成長した部分は)FWがひとりひとり体を張って、『責任』をしっかり、部員91人分の『責任』を背負って戦えているところ。もう一度、早明戦をやりたいと思っていた。メイジのプライドを全部出していく」(井上)
その早明再戦となる準決勝では、紫紺の前8人として、東海大戦から不動のメンバーが並ぶ。
シーズン終盤を迎えて、とうとうチームの成熟に自信を持ち始めた最強のチャレンジャーが、最高の舞台でのリベンジに臨む。